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『鬼の筆』にクリエイティブと経営の両立を見た

橋本忍といえば、日本を代表する映画脚本家。黒澤明との日々を綴った手記『複眼の映像』も以前大きな話題となりました。
この『鬼の筆』はさらにそこから踏み込んだ評伝になっています。12年間という長い時を要して紡ぎあがった脚本家・橋本忍の人生。

全身脚本家という文字が帯に躍っていますが、私も橋本忍という人には破天荒でもの作りに心血注ぎまくって周囲のことはあまり見えないような印象を持っていました。そんな思い込みが吹っ飛ばされたのがプロダクション設立の頃からの章です。
当時の映画製作事情、配給事情を受けて自分が納得できるものをどうやって作っていったらいいのかを考え、その解決方法として自らプロダクションを立ち上げるということを選択します。
つくる事だけでなく、儲けるための試行錯誤がこれまたすごい。もちろん物作りに妥協するということもありませんから、まさに作品の質と経営ということを両立させる経営者ぶりです。
この経営者側面は、今回掘り起こされた新資料の発見から見えてきたことでしょうから、歴史的にも大きな意味のある本なのだと思います。

一方で、手に入ったお金を競輪にすぐに突っ込んじゃうといった博打ぶりもあわせもっているところが、俗っぽくそれもまた一つの魅力なのだと思います。
橋本忍の視点から見た松本清張像も(本好きとしては)面白いところでした。松本清張って、私にとってはどちらかというと歴史的という枠に入る人物なのですが、身の回りには一緒に仕事をしたという方も結構いらっしゃるので、様々証言から浮かび上がってくる清張像、みたいな感じ。非常に興味深いです。

と、つらつら感想を書いていますが、実はすでに手元に本がありません。粗製濫造を嘆き、徹底して面白い、そして儲かるものを作ろうとする橋本忍の姿勢。感銘を受けて、アツい気持ちになっている時に目の前を通りがかった編集部長に「これ読んで!!!」って強烈にオススメして半ば無理矢理貸してしまったのでした。… という本です。これ。

それにしても、12年という年月をかけて1冊の本が紡がれたという事実にも色々思うところがあります。元々は「新潮45」の企画でスタートしたそうですが、雑誌もなくなり、様々な人の手を経て出来上がった1冊。まさに歴史に残る評伝と出会えました。

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