【映画レビュー】『ストレンジャーザンパラダイス』:ドラマがなくても面白い
とにかくドラマチックでなくて、何も起こらず、結末がない映画である。一見、虚無的に思えるけれども、出てくる人物たちはみんな愛おしい。そして、本当にかっこいい! なぜなのだろう。
ジム・シャームッシュ監督の独特の世界であり、その後の作品にもずっと貫かれている。
とにかく、これは私の映画に対する固定観念を変えてくれた最初の作品だった。
ドラマがなくても、人物が無口でも
なにもドラマチックなできごとが起こらない。なのにとても面白いのはなぜだろう。
よく考えたら、たいていの人の人生にはドラマチックなできごとなんてめったにない。ドラマチックなことばかりおきる人生のほうが変である。
また、登場人物たちは無口なうえに、たいしたことはしゃべらない。それなのに、画面が語り掛けてくる。沈黙が言葉になっているようだ。彼らは特別の人ではなく、何かしているわけでもない。それなのに、とても魅力的だ。男たちはなんとなく可愛くて、女は自立して媚びなくて素敵に見える(特に、エヴァはカッコいい)。
でも、よく考えたら、私たちの日常も同じだ。しゃべらなくても個性があって、それぞれの魅力を放っている。むしろ、意味のあることばかりしゃべるような人は、演技をしている別世界の人のように思えるだろう。
さらには、場面と場面の間に、かなり長めの暗転が入る。舞台の幕間のようだ。そのせいでぶつぶつと話はとぎれる。めくるめく展開にはならない。
それなのに、緊迫感を持ち続けてみることができる。この暗転をはさむ手法は、大昔から1周回って今になったかもしれないが、とにかく斬新だった。だんだんテンポがよいと感じ始めてくる。
映画を観ている姿を見るだけでおもしろい
そう考えると、この映画は私たちの日常そのものなのなのかもしれない。たいしたことが起きない毎日が繰り返される。虚無的に思えるが、そうではなく、そうした淡々とした日常の中に、楽しみやおもしろさを見つけることで、私たちは生きていけるのだ。
象徴的なのは、4人並んで映画を観ているシーンである。画面はただ映画を観ている4人を映し出すだけだ。ほんの少しだけ動きはあるが、私たちはただ映画を観ている姿を見せられる。でもそれを見ているだけで楽しくなるから不思議だ。
固定観念を打ち破ってくれた最初の作品
この映画は、映画はドラマチックでなければ退屈だという固定観念をひっくり返してくれた。
登場人物たちは波乱万丈の人生を歩むものだという固定観念もひっくり返した。
意味のあるセリフをしゃべらなくてはいう固定観念もひっくり返した。
息もつかせぬ緊迫感をもって展開していくほうが、観客を惹きつけ、おもしろく感じさせるという固定観念もひっくり返した。
私にとって、映画には、ドラマや、意味のあるセリフや、緊迫感や、めくるめく展開が必要だと思っていた固定観念を打ち破ってくれた最初の作品だった。
とにかく淡々と、起伏がなく(起伏を見せないように)進んでいく映画です。それなのに、本当におもしろいです。ずっと画面に惹きつけられます。
そして、ジャームッシュ作品はいつも音楽がかっこいいです。スクリーミン・ジェイ・ホーキンズ、最初に見た後にすぐ、CDを買いました!
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