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とろろ汁と家族の形

「とろろ汁はね、飲み物。」 そう言うと、父も母も、いつも律儀に笑ってくれる。

私の地元の名産品は自然薯。10月下旬になると、立派な自然薯が直売所にゴロゴロ並ぶ。

それを仕入れて、ついたままの泥を洗い落とし、皮を剥いてすりおろす。すり鉢に移し、すりこぎで更にする。その後に冷ましておいた具無しお味噌汁(顆粒出汁の素と味噌を溶いたお湯)を少しずつ入れて、のばして完成。

手間はかかるけど、本当に美味しい。

でも本当に手間がかかるから、うちでは2人1組で作ることになっている。

2020年、秋。

私は初めて、父と2人でとろろ汁を作った。

定年を迎えた父は主夫業に専念し、母は還暦を超えてもバリバリ働いている。

私が小さい頃は祖母と母が作り、家族6人で食べた。すり鉢いっぱいに作ったとろろ汁はすぐに無くなる。

今。父と私が作り、仕事から帰った母と、デイサービスから帰った祖母4人で食べる。少なめに作ったけどやっぱり余ってしまった。

18で実家を出てから8年。妹は嫁ぎ、大好きな祖父は空に旅立った。余ったとろろ汁を見ると少し切ない。

それでも。

父と、味が濃いだの薄いだのわーわー言いながら台所に立つのも悪くないなと思ったし、とろろ汁はやっぱり美味しい。

家族の形は変わるけど、うちのとろろ汁の味は変わらない。

私はこれから先、この我が家の味を誰と一緒に作って、誰と一緒に食べるのか。

未来が楽しみだ。


最後まで読んでくれたあなた。 ありがとうございました。またいつか🍄