人事諸制度を生かした人材育成のススメ

今回はいかに職員レベルに落とし込み、人材育成を推し進めるかについて考えてみましょう。

皆さんの法人にも等級制度や考課制度、給与制度、育成制度といった人事諸制度が整備され、法人理念を実現するための人材育成に取り組まれていることでしょう。
しかし職員の多くが、それぞれの制度がどのように関係しているか、等級制度で示される期待人材像や考課制度で求められている考課要素をきちんと理解しているでしょうか。
また、組織的に人事諸制度の理解を促すような機会や時間を十分に確保しているでしょうか。

「人事考課制度を導入するタイミングで職員に説明した」「新入職員にはオリエンテーション時に説明している」といった声は聞こえそうですが、大事なのは”既存職員に対してどこまで浸透できているか“、です。
新入職員たちは先輩にあたる既存職員に尋ねますよ、「人事考課はどのようにすればよいですか?」と。
誤った理解をしている職員から誤った解釈で、誤った説明が新入職員に伝播してしまっては、せっかくの人材育成の仕組みである人事諸制度が、「給与の査定でしょ」といった誤った制度の認識となってしまいます。
そうならないためにも、既存職員へ人事諸制度を正しく理解させる時間や機会を確保することは制度運用上、最も重要な取り組みとなり得るのです。

では、どのように人事諸制度を職員へ説明し、理解、浸透させていけばよいでしょうか。
等級制度と考課制度の活用の仕方を例に取り上げてみましょう。

【等級制度】
等級や階層といわれるように、組織における縦方向の層(レイヤー)を指し、主従の関係性を表しています。
ですので、等級制度がきちんと機能している組織では階層(ヒエラルキー)に基づく意思伝達系統が機能しますが、そうでない組織では、いわゆる“鍋ぶた組織”となり、施設長とナンバー2の職員とそれ以外の横並び組織となってしまいます。
また、等級制度を基にキャリアパスが構築され、皆さんの組織の中でのキャリア形成の方向性が記されています。

等級制度やキャリアパスはあくまでも所属しているその組織の中で定められているキャリア形成の道しるべですから、その組織に属している以上、等級制度やキャリアパスに求められる職能や職務を全うする責務を負っています(他法人に移れば、求められる職能や職務の内容は異なるでしょう)。

だからこそ、職員に対して等級制度やキャリアパスに求める姿になるよう指導育成する権利を組織は有していますから、感情的に指導育成するのではなく、これらの制度をうまく個別面談などの中にも取り入れて説明することが重要です(そのためには等級制度やキャリアパスそのものをあなた自身が理解しておく必要があるのです)。

また、等級制度やキャリアパスは上位の内容も知ることが出来ます。
要するに、2等級の職員が3等級になりたい、そのために求められる職能や職務、昇格基準などの成す術の“答え”が記されているのです。
「3等級になりたい職員は、職能や職務をこの水準(期待人材像)まで求めますよ。そのために自己研鑽や能力開発してくださいね。」というメッセージを含んでいるのです。
だからキャリアパスは「キャリアの道筋」ともいわれるのです。

福祉施設の多くでは、等級制度やキャリアパスの内容を組織内部に十分浸透させられておらず、職員一人ひとりの人材育成と切り離されている感が否めません。
人材育成の重点ポイントが、テクニカル(技術)スキル重視の上位資格取得ありきとなっており、マネジメントスキルなどの階層ごとに求められる職能が軽視されていると言わざる負えません。

等級制度は「組織における縦方向の層(レイヤー)を指し、主従の関係性を表しています」と書きました。
上位等級になるにつれて、テクニカルスキルだけではなく、コンセプチュアル(概念化)スキルを高めることが求められていますので、キャリア形成や能力開発のマイルストーンとしても、等級制度やキャリアパスを活用できるよう働きかけていくことがポイントです。

【考課制度】
人事考課制度は等級制度に求められる階層ごとに求められる職能や職務を全う出来ているか判断する指標です。
要するに、法人が求める期待人材像に近づけられるよう定められた人材育成の“ものさし”となります。
等級制度同様、2等級に求められる内容が人事考課シートには記載されていますから、この内容通りに自己研鑽や能力開発すれば、「オールA」を取ることも可能なのです(実際はそうはいきませんが…)。

人事考課も年1回または2回と定期的に実施している法人が多いと思いますが、職員が求められる考課要素を日々の業務の中でどれだけ意識できているかが大切な視点となります。
人事考課を行う上で、「要素の選択」「行動の選択」「段階の選択」の3つの選択を行います。
日々の業務をなんとなく行っているのと、法人理念を実現するために2等級の自分にはこういったことが求められていると意識して業務に向き合うのとでは、成長スピードは雲泥の差です。
さらに、そのように日々業務を行うことで、自身の“自信”にもつながるでしょう。

また、考課者となる職員も人事考課を行う上で職員の行動を観察しておく必要があります。
その行動と考課要素を結びつけて「段階の選択」を行う必要がありますから、考課者自身も考課要素の理解を深めておく必要があります(結果的に個人面談でフィードバックする際、納得度の高い評価につながります)。

考課要素は等級制度に基づいて複数設定されていることが多いです。
「規律性」「積極性」「責任性」「協調性」といった情意考課の要素をはじめ、「コミュニケーション能力」「リーダーシップ」「人材育成」といった独自の考課要素を設定している法人もあるでしょう。
職員に日々の業務の中で意識させて行くためには、これらの要素がどのように関係しているか図示したり、優先順位をつけて段階的にキャリア形成や能力開発を推し進められるようにしてはどうでしょう。

ある法人では「動機付け」という考課要素を達成させるためには、「動機付け」するために必要な「コミュニケーション能力」による傾聴やコーチングのような「質問力」を磨いて行く必要性を図示して伝えています。
私はドラクエ世代なので、よく“職業システム”に例えているのですが、読者の皆さんにどこまで伝わるか自信がありません…。
要するに、能力開発は段階を経て成し遂げていきます。
いきなり難しい問題を解けないのと同じで、繰り返しの練習や経験を積む必要があります。
だからこそ、等級制度で職能や職務を全う出来て初めて上位等級になるのです。

以上、等級制度と考課制度の理解・浸透を促すためにどのように活用してもらいたいか説明してきましたが、これらの制度の目的は“人材育成”です。
だからこそ、職員の採用・定着がままならず、人材不足が深刻化すると、等級制度や考課制度の運用そのものが成り立たなくなります。
卵が先か鶏が先かは分かりませんが、人事諸制度を活用することで人材採用・定着・育成を進め、一人ひとりのキャリア形成や能力開発を通して、組織力やサービスの質の向上につながり、職員一人ひとりの成長が組織の成長につながる好循環を生み出す主軸(メインシャフト)です。

人事諸制度だけではなく、経営理念や事業計画書などの組織の仕組みを改めて職員に浸透・理解させることが、法人や施設・事業所に対する「愛着」や「思い入れ」といったエンゲージメントを高め、組織や施設・事業所に対する帰属意識を高めることにつながります。
「コア・マネジメント」の概念に人事諸制度が位置付けられているには、そういった理由があるのです。
なぜならば、魅力ある組織やサービスを提供している法人や施設・事業所には、魅力ある職員が揃っていますから。

管理人

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