福祉業界のICT化の可能性について考えてみる

“働き方改革”のスローガンのもと、様々な業界で効率化・生産性の向上に向けた戦略的なICT化が進められています。
その一方で、ICT特需の影響もあり、IT専門職も不足していると聞きますから、日本人(私も日本人ですが)の性(さが)なのか、つくづく流行りモノが好きなんだなぁ、と思ってしまいます。
なので、多くの施策がモグラ叩き的な処方箋ばかりで、原因の根本は未解決が多くなってしまうのもうなずけます。

福祉業界のICT化の現状

他産業に比べて、福祉業界は“マンパワー”といわれるように、対人援助業務が中心で、属人的になりがちな業務(職人化)ゆえ、ICT化が遅れている状況は否めません。
RPA(Robotic Process Automation)による作業の自動化により、業務効率を劇的に高めた大手民間企業も増えてきています(非営利企業との考え方は必ずしも一致しませんので、参考としてお読みください)。
記録類の電子化についてはすでに多くの施設でも進み、デイサービスでは送迎車のルート作成もデジタル化されつつあります。
最近ですと、介護ロボットDefreeAIを活用したケアプランの自動作成などが注目されつつあります(自治体の補助金などもありますから、積極的に検討していただきたいと思います)。
ただし、現場の声を聞くと、「この介護ソフトは使いにくいんです」「ケアプランの自動作成の本格導入までにはまだ時間を有する状況」といったように、ICT化そのものの内容(クオリティ)や使い勝手(UI:ユーザーインターフェース)が現場ニーズにマッチしていない、または、追いついていないのではないかと感じます。

記録ソフトを例にとってみると、高齢系であれば日々の利用者の様子やバイタル、水分・食事摂取量、排泄状況などは記録しやすいように選択肢が設定されていたり、チェックボックス化されるなど、短時間で記録できるような工夫がなされています(iPadなどのタブレット端末で記録を入力することも可能なものもありますよね)。

しかし、それらの記録とケアプラン(個別支援計画など)との結びつき(連動性)を意識しやすいUIかというと、別にバインダーを作って、一人ひとりのケアプランをわざわざファイリングし、Aさんのケアプランの内容を確認するために顔を右と左に行ったり来たりしないと書けない、なんて話はざらにあります。
福祉サービス第三者評価で実際に記録ソフトを動かしてもらいながら説明を受けることがありますが、説明を一回聞いただけでは、私は使いこなせる自信がありません(苦笑)。

ただし、そもそも論として、日々の記録とケアプランが連動していない理由として、記録に何を書かなければならないかの視点がズレてしまっているケースがあります。
その場合は、記録のデジタル化云々以前の問題ですので、ケアプランの個別化・具体化し、記録の視点をきちんと定め、記録内容の充実化を図ることが先決です(この状態で導入しても、費用対効果は望めません)。

あくまでもある記録ソフトの例でしたが、世の中には、ケアプランと日々の記録が連動しやすいような工夫がされ、モニタリングやアセスメントしやすいソフトもあるのでしょう。

「向上力」を起点に効率化・合理化を考える

日々の業務の中でも、「もっとこうなったらいいなぁ」と思うことを、私は「向上力」と呼んでいます。
この「向上力」は日々の業務の中での“違和感”が起点となり、業務改善につながる重要な気づきと位置づけています。
組織の弱体化を打ち破るためには古い慣習を捨てる”の記事の中では組織の新陳代謝について取り上げ、“当たり前”をどう変えるか?”では、クルト・レヴィンという心理学者の残した「解凍=混乱=再凍結」というモデルをご紹介しました。
この「向上力」を自分達の出来る手段・方法の視点で発想(発案)するか、またはありたい姿(達成・ゴール)を創造(デザイン)し、その達成に向けてあらゆる手段・方法を練るかによっては、業務改善のプロセスも大きく変わります。
「記録のデジタル化」が目的になってしまっては「導入できる・できない」に対する手段・方法を練ることになりますが、「業務の効率化(最終ゴールは“職員の有給休暇取得率の向上”)」が目的であれば、「記録のデジタル化」は一手段・方法であり、そのほかにも様々な対策を講じる必要があるわけです。
初期段階で「記録のデジタル化」が上手く導入できなくても、結果的に「記録のデジタル化」に着手しなければならない時が来たら、改めて検討すべき議案として取り上げる必要性に迫られることになります。
なぜならば、それは“経営戦略“として実行するために不可欠な判断だからです。
これまで通りのやり方、“当たり前”をどう変えていくかは、福祉業界においては、大きな“経営戦略“となり得る経営課題といえます。

話は変わって、私は子どもと外出する際に気がかりなのが、“トイレ探し“です。
大人と違い、膀胱が小さい子どもは、1〜2時間ぐらいで「トイレ!トイレ!」となります。
男子トイレなら回転は早いのですが、どうしても女性トイレは時間がかかります。
その際、子どもの切迫状況によって、これから向かおうとしているトイレが空いているのか、混雑しているのかによって結末が大きく変わる、こともあります。
このように、これから向かおうとしているトイレの混雑状況がわかればなぁ〜と思っていたら、実はもうあったのです!

このように、「もっとこうなったらいいなぁ」と思うことの大半はすでに解決策がある(検討が進められている)か、またはアイディアとしてイノベーションを起こす引き金になる可能性があります。
では、どんなことがICT化されると現場における効率化・生産性の向上が図れるでしょうか?
もっといえば、どんな業務の時短を図りたいですか、どんなリスクマネジメントを軽減したいですか?
効率化・生産性が向上したことで出来た時間を、どんなことにもっと割きたいですか?
こんな視点で、皆さんも「もっとこうなったらいいなぁ」と思うことはないでしょうか?

大掛かりなICT化までいかなくても、例えば定例会議でホワイトボードに板書して、iPhoneのカメラで撮影して議事録として代用できないか(議事録作成時間の短縮)、またiPadなどのタブレット端末を導入しペーパレスを実現する(消耗品費の削減)、といったデジタルディバイスを活用した業務改善やコスト削減を思いつくだけでも起案する価値があると思います。
最初は試験的に導入し、半年、一年ぐらいしてアセスメントし、本格導入するかどうか、費用対効果(導入コストと時短効果など)を検証し、検討されてはどうでしょうか。

私はITエンジニアでもないので、「もっとこうなったらいいなぁ」とアイディアを出すだけですが、ブログを偶然にもご覧になられたIT系の方達のヒントになれば幸いです。

①ソーシャルワーク・プラットフォーム(SWPF)

医療機関のカルテを電子化し、クラウド化することで、どの医療機関を受診しても、患者の既往歴やこれまでの処置・処方箋の内容が閲覧することができ、医療費の抑制や医療処置の効率化を図ることが出来る仕組みを導入している地域があります。
それのソーシャルワーク版が、「ソーシャルワーク・プラットフォーム(SWPF)」です。
この構想を思いついたきっかけは、虐待により幼い命が失われる事件が後を絶たない状況が、縦割りとなっている関係機関同士の情報共有や多職種連携体制に大きな課題があるといわざるを得ません。
そこで、「SWPF」を通して、ケースをクラウド化し、高齢・児童・障害の垣根を超えた多職種が連携しながら、最善の支援を行う体制をとることを可能とすることを目的とします。
多くのケースは紙媒体で管理しており(またはスタンドアローンのデジタルデータ)が多く、ケースに対する良いアプローチ・悪いアプローチなど高い専門性を有するにも関わらず、ナレッジが社会的に共有化されていないため、切れ目のない社会福祉サービスを提供していくための土台が必要といえます。
しかし、非常にデリケートな情報を管理するPFになるため、万全なセキュリティなどを付す必要があるでしょう。
施設の中での多職種連携でも上手くいかないに、地域におけるソーシャルワークにおいても、ICTを活用しなければ、これまで以上に専門性やスピード感を持った対応・判断は出来ないのではないでしょうか。

フィンランドには“ネウボラ”という制度がありますが、切れ目のない福祉サービスを提供するためにも、SWPFのマネジメントを社会福祉士の業務独占化にするなど、ソーシャルワーカーとして求められる役割・機能をICTを活用して強化したいですね。

②QRコードを用いた情報共有システム

職員さんが出勤すると、事務所にある業務日誌やケース記録に目を通して、不在時の利用者の様子や業務連絡の情報共有を行います。
皆さんは出勤してから、この情報共有にどれくらいの時間を要していますか?
フロア全員分ですか?担当利用者分ですか?
記録に目を通すのも大事ですが、情報共有の一環として、利用者とコミュニケーションを取る時間と位置づけてはどうでしょうか。
利用者の居室にあるQRコードにタブレットのカメラをかざすと、利用者のケース記録と特変事項が列挙されます(日々の記録に紐付けられています)。
その記録内容に沿って、利用者から直接話をすることで、リアルタイムで様子や状況を確認することができるとともに、利用者と一対一で話をする貴重な時間にもなり、関係性を深めるきっかけにもなることでしょう。

QRコードはいろいろな分野でも活用されている優れものです。
さまざまな情報をコンパクトに管理し、カメラで読み取ることで必要な情報共有や情報管理ができるよう活用を検討してみてください。

現場で困っていること、効率化・生産性向上に向けた皆様からのアイディアがあれば、Twitterまたはブログにコメントをお寄せください。

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