特定処遇改善加算の生かし方

10月から始まる介護職員等特定処遇改善加算のQ&Aの第二弾(Vol.2)が7月23日に通知されました。

そもそも、勤続年数10年以上の介護福祉士有資格者を一つの基準(目安)に「経験・技能のある介護職員」と定義づけ、より手厚い処遇改善に取り組んでいく、ということがそもそもの大義名分でした。

介護福祉士の人数割合を加算取得の状況を要件にし、特定処遇改善加算はⅠとⅡが設定されます。

しかし、Vol.1のQ&Aにおいても、「経験・技能のある介護職員」の基準は、法人・施設の裁量によって、その判断が任されるという解釈になったため、「経験・技能のある介護職員」の基準を定めるところから、経営層の頭を悩ますことになっています。

私が携わっている特別養護老人ホームの実態調査の「特定処遇改善加算の取得見込み」の設問においては、「経験・技能のある介護職員」については、介護福祉士資格は概ね考慮し、勤続10年以上は職員の定着が多い施設は自法人のみ、入れ替わりがある施設は他法人も含む解釈になっている傾向があります。
その他にも、リーダーや主任などの役職についている職員、介護福祉士以外の認知症介護実践者などの有資格者、人事考課制度の評価結果を基に割り振るといった法人・施設の工夫が見受けられました。

かなりの裁量を法人・施設に求められるため、職員にきちんと説明責任を果たすことが通知文の随所に記載されています(「労使でよく話し合いの上、事業所ごとに判断することが重要」とのこと)。
職員との関係性を良好にするため、法人・施設内のどういった職員を「経験技能のある介護職員」と位置づけ、どれぐらいの処遇改善を行うかを定めることが重要で、無料配布している特定処遇改善加算の配分シミュレーションにも「人材処遇ポリシー」として、設定できるようにしています。

一つ気をつけてもらいたい点として、「経験・技能のある介護職員」の定義がしっかりしていない場合に起こる、不利益変更の可能性です。
今回の計画書は、2019年10〜2020年3月(2019年度)の期間のものですが、2020年度も継続されると思われます。
2020年4月以降(2020年度)から「経験・技能のある介護職員」の定義を見直す場合、「経験・技能のある介護職員」から「その他の介護職員」に変更になり、処遇改善の減額が生じる可能性が考えられます。
その際、きちんとした「人材処遇ポリシー」を定め、職員が納得いくものでなければ、処遇改善の減額による不利益変更になる恐れがありますので、「経験・技能のある介護職員」の定義はきちんと時間をかけて検討していただきたいと思います。

また、今回のVo.2の通知の中で驚いたのが、問11の「ただし、その他の職位の平均賃金額が他の介護職員の平均賃金額を上回らない場合はこの限りでない」の解釈です。

要するに、これまで「経験・技能のある介護職員:その他の介護職員:その他の職種」の平均賃金額の割合が「2:1:0.5」ですよと謳われてきたものが、「2:1:1(上限)」でも良いですよ、となったのです(初めからこの解釈だったのかもしれませんが、それにしてもわかりにくい言葉遊びです)。

各グループごとで平均賃金額を算出する際は、賃金改善を行わない職員についても平均額を算出する母数に含むことができるため、

例えば、Aさん40,000円、Bさん0円の賃金改善の場合、その平均額は、(40,000円+0円)/2人=20,000円

となります。
「その他の介護職員」と「その他の職種」の配分割合が1:1(上限)となったため、例えば、「その他の職種」に含まれる生活相談員が特養の介護職員の際に夜勤手当をもらっていた相当額(額にすると4〜5万円ほどでしょうか)を特定処遇改善加算を活用して補填することも可能です。

生活相談員に4万円、機能訓練指導員に15,000円、事務員に5,000の賃金改善の場合、その平均額は、
(40,000円+15,000円+5,000円)/3名=20,000円

となり、特養の介護職員から生活相談員になって、処遇的に納得がいなかった職員に対して報いることになるかもしれません。

そしてもう一つの驚きが、問20の遡及(過去のある時点に遡る)して、支給することができるという解釈です。

要するに、本来であれば、10月からの加算算定以降、賃金改善しますが、法人として、2019年4月から何かしらの賃金改善を行っていた場合、その賃金改善原資に特定処遇改善加算相当額を補填しても良い(充てても差し支えない)という解釈がなされたということです。
例示がありますが、10月から月2万円支給するのではなく、4月から遡って支給しているので、2万円のうちの1万円を4月〜9月分として充て、10月以降は月1万円支給とすることも差し支えないということです(ただし、月8万円支給または年収440万円以上の者の設定をお忘れなく)。

ここまで法人・施設の裁量に任せられてしまうと、結局なんでもありで、介護職員を目指してもらう人材を増やしたり、定着を促していくという当初の大義名分が薄れてしまうことが懸念されます(中には遡及云々と言って、不透明な処置をしてしまう法人も出てきてしまうことを危惧しています)。

最後に、特定処遇改善加算の要件の一つとして、職場環境等要件の「資質の向上」「労働環境・処遇の改善」「その他」の項目ごとに必ず1つ以上取り組み実施があることが求められています。

ほとんどの施設では、すでに満たしている(仕組みとして確立している)ことと思います。
特定処遇改善加算取得の要件そのものはそれほど難しくはありませんが、真の意味で、職員の処遇を改善し、やりがいを見出してもらいながら、定着をいかに促していくかが問われています。
そのための原資を特定処遇改善加算として国が税金を投入し、補填しようとしていますから、ぜひ良い形で活かして欲しいと思っています。

・社会福祉法人連携が議論される中での「小規模事業所の共同による   採用・人事ローテーション・研修のための制度構築」・介護人材不足に伴う「ICT活用」・地域公益的取組が責務となったからこその「地域の児童・生徒や住民との交流による地域包括ケアの一員としてのモチベーション向上」

といった新たな項目にも挑戦してもらい、3大介護をするだけの介護職員ではなく、これからの高齢福祉を作っていく・担っていく存在としての介護職員になってもらいたいというメッセージを特定処遇改善加算に込めて、支給を検討してみてはいかがでしょうか。

管理人

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