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手のひら日記 001

訪問介護をしていた時の事

 Mさん(1人暮らしの高齢者男性)のお宅に、時々、日常生活のお手伝いで訪問をしていた。
 私の父と同じ青森県出身で、何となく父方の祖父に似ていた。その方の津軽弁が心地よくて、訪問するのが楽しみだった。
 Mさんのお部屋は、2LDKで、余計なモノはなく、とても質素でキレイに生活されていた。仕事の内容は、45分の間に、お掃除をして、一緒にお料理をする事だった。料理は、だいたい卵焼きと、ゆで野菜。卵焼きを作る時、「この白い所(カラザの事)、取りますか?」と尋ねたら「そのままで。私は、戦争を経験しているから、何でも栄養になる所は捨てないのさ」とおっしゃった。その時、飽食の時代とは言え、そんな事を考えもしなかった自分が恥ずかしかった。
 戦争中、Mさんは、零戦に乗っていたそうだ。有る時、乗った零戦が故障して、飛ぶ事ができなかった。「それで、私は生き延びる事ができた」とおっしゃっていた。
 寝室には仏壇があり、女性の写真が飾ってあったが、正式な奥さんではないらしい。詳しい事はわからないが、ご家族は(奥さんとお子さん)、青森に住んでいると言っていた。これまでに、どんな人生を歩んできたんだろう。今は、一人でここに住んでいるけれど、淋しくないと良いなぁと思った。
 もう、会う事もない方だけど、卵料理をする度に、Mさんの事を思い出す。