見出し画像

水とベンチャー企業 ~水インフラを変革する企業5選~

何となく古いイメージがある水ビジネスですが、近年、先進的なベンチャー企業が活躍しています。

今回は、水業界で有望な日本のベンチャー企業を紹介していきます。


■水インフラのトレンド


水インフラの課題に対して、ベンチャー企業は多方面からアプローチしています。

そこでキーワードとなるのが、水インフラの「分散化」、「自動化」、「個別最適化」です。

・分散化

従来の浄水場、下水処理場は、長距離の配管を引いて、集めて処理する”集約型”です。

一方で、人口減、老朽化、税収減が進む中、処理場や配管といった巨大なストックの維持が難しい地域も出てきています。

そこで、水道、下水道を小規模に”分散化”することで、集約型と分散型をうまく組み合わせながら、水インフラを再構築していく必要があります。

・自動化

水処理は、天候や流入水質、処理水量の変動、機器の維持管理など、非常に複雑です。幅広い知識、経験、スキルが要求されます。

ベテラン管理者が急激に減少する中、属人的な管理に限界がきています。AIやIoTセンサー等を活用した自動化、効率化が必須です。

・個別最適化

世界的な環境意識の高まりを受け、カーボンニュートラル、水質規制の強化などに対応する必要があります。

その上では、産業や地域、処理方式ごとに異なる水処理の特徴や需要に対して、個別最適化が可能な技術が重要です。


これらの課題に取り組むベンチャー企業が、近年盛り上がっています。

■企業紹介

水関連のベンチャー5社を紹介していきます。

①WOTA

今、日本の水関連企業で最も勢いがあるベンチャーです。ソフトバンク等の大手企業との協業や、海外展開も進めています。

「人と水の、あらゆる制約をなくす」ことをビジョンに掲げ、小規模自律分散型の浄水・排水システム、災害用のシャワーなどを開発しています。

24年1月の能登半島地震では、発災からわずか数日で被災地にシャワーを提供し、話題になりました。

今後、既存水インフラ維持の課題深刻化、災害の増加に連れて、同社が活躍する場もさらに増えそうです。

同社は、製品やビジョンが「イケてる」点も注目です。コロナ禍には、鎌倉など感度が高い人が集まる場所に、デザイン性の高い循環型手洗い機を設置し、ファンを獲得しました。水業界と遠い、あらゆる人の心を動かす同社のアプローチは大変参考になります。


②Fracta Japan

2015年に米シリコンバレーで創業しました。AIに基づく水道管、下水道管等のインフラ劣化予測のソフトウェアを展開しています。

年間、全国で2万件以上、老朽化した水道管の漏水・破損事故が発生しています。水道管は地中に埋まっているので、直接目に見えず、管理が困難です。

そこで同社は、水道管が埋まっている周辺土壌の湿度、地上における車両の往来、勾配の有無など、複数の要素から、優先的に交換すべき水道管の「見える化」を可能とするソフトウェアを提供しています。

米国では28州、70社以上の事業体で同社の技術が導入済みです。現在は水処理大手の栗田工業㈱の子会社になっており、日本での導入も加速しています。パワフルな創業者の書籍、発信にも注目です。


③Nocnum

文化人類学を専攻していた方が、博士課程在学中に設立した異色のベンチャーです。微生物で排水を処理する「浄化槽」の異常を早期検知するIoTセンサー、遠隔監視システムを開発しています。

浄化槽は、下水道の整備されていない山間部や、人口密度の低い住宅等で主要な小規模排水処理です。今後、人口減少が進む中で、浄化槽の需要は必ず伸びると思われます。大規模な下水処理場建設のハードルが高い途上国においても、浄化槽は重要です。

平たく言い換えると、浄化槽は「排水をキレイにする微生物の飼育箱」です。流入する排水の種類や負荷変動に、微生物が影響を受けるので、処理効率も変動します。浄化槽の劣化速度も、使用環境下によって大きく異なります。

同社は、浄化槽内の過酷な環境下で水質センサーの値を「自動補正」し、異常の早期検知、維持管理が可能なAIを開発しています。浄化槽管理者の減少や、海外の未処理排水といった、幅広い課題の解決が期待できます。


④フレンドマイクローブ

名古屋大学発のベンチャーです。排水処理でやっかいな「油」を、微生物の力で”分解処理”する技術を開発しています。2023年には、住友商事などから2億円規模の資金調達をしています。

排水中の油分処理は、気泡で油を浮かせて”物理除去”する「加圧浮上装置」が一般的ですが、加圧に必要なエネルギー、油を多量に含む残渣の処分コスト、悪臭、虫の発生などの課題があります。

そこで同社は、既存処理方法の代替技術として、「油が得意」な微生物に着目し、油を分解処理する省エネ処理装置を提供しています。排水に油が多く含まれる食品工場などを中心にシェアを伸ばしています。

大量のエネルギーを消費する排水処理において、同社の技術はカーボンニュートラルの文脈でも注目です。


⑤アイエンター

WebやAIの開発、DX化推進コンサルティングなどを展開するIT企業です。同社の強みを活かして、「陸上・海上養殖」を、ITの力で効率化する「i-ocean」という事業を展開しています。

養殖事業は、水質管理や給餌管理、出荷時期などの管理が煩雑といった課題があります。そこで同社は、水質センサーやAI魚体カメラを活用し、管理者の経験値に依存しない、養殖事業の自動化・省力化を推進しています。また、管理の「見える化」による養殖魚のブランディングも手掛けています。

国としてスマート水産業の取り組みが急速に進む中、注目すべき企業です。
同社の技術は、上下水道処理における水質センサー、AI画像解析技術にも大いに活かせそうです。


■まとめ

水インフラに係る注目ベンチャーを紹介してきました。ITや文化人類学など、異分野のバックグラウンドを持つ企業が多い点が特徴です。

2024年度からは、上下水道事業の国交省一元化、AI関連事業に対する国の予算増額などが加速していきます。今回ご紹介したベンチャーの存在感も増すでしょう。

水インフラの分散化、自動化、個別最適化を進める上で、大手企業との協業も、今後のトレンドになりそうです。既存の水関連企業が持つ膨大な維持管理データ等のリソースと、ベンチャー企業の強みの掛け算も重要です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?