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夕焼けごっこが分からない

「夕焼けごっこが好きだったんだ」

かわずくんはビルの向こうに沈む太陽を見ながら言った。

「夕焼けごっこってなに?」

かわずくんは僕を無視して続けた。

「太陽見るとさ、くしゃみしたくならない?」

「夕焼けごっこって夕焼けのマネするってこと?」

僕もかわずくんのことを無視する事に決めた。

かわずくんはチラッとこちらを見て

「最近、飛行機がギリギリを飛んでるよね。危なくないのかな?」と言った。

かわずくんは夕焼けごっこの事を僕に教える気はないらしい。

「夕焼けごっこって、なにするの?」

「いつの間にかルールってどんどん変わってくんだね」

「夕焼けごっこって、カラスの鳴き真似とかする?」

「電信柱もいつの間にか地中に埋まってたし」

「夕焼けごっこって、夕焼けの歌とか歌ったりする?」

「俺は電線がある風景が結構好きなんだけどな」



そんなやりとりが何回も続いて、僕はもうそろそろ心が折れそうだった。

いつまで続くのだろうと思ってかわずくんの横顔を見た時

もしかして・・・と思った。

もしかして、この状況が夕焼けごっこってやつなんじゃないのか?

夕焼けごっこってなに? という質問に一切答えないで、

ちぐはぐな会話をすることが夕焼けごっこなのではないか・・・。


僕はそう思って、考えた事をかわずくんに伝えた。

するとかわずくんは、ふっと笑ってうなずいた。

やっぱりこのやりとりが夕焼けごっこだったんだ。

僕はなんだか晴れやかな気分になった。

今日はスッキリ眠れそうだ。

そう思っているとかわずくんが

「カラスって、夕方より朝の方が鳴いてない?」と言った。

「え・・・?」

かわずくんはさっきまでと同じ様子だった。

あれ、終わってなかったの? 僕の答えは正解じゃなかった?

その後もかわずくんはなんだかよく分からない呟きを言って

僕はただ、かわずくんの素朴な疑問を受け止めるだけの時間が続いた。

その間に、あたりはすっかり暗くなってしまった。

「そろそろ帰らない?」僕がいうと

「そうだね」とかわずくんが返して

やっと夕焼けごっこの呪縛から解放された。


結局、夕焼けごっこがなんだったのかは分からない。

質問をして、またあの時間が続くかもしれないと思うと聞くこともできない。

今日はよく眠れそうもない・・・

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