季節に刺されたら

「あれ持ってきて欲しいんだけど…」

かわずくんから唐突にメッセージが送られて来た。

あれが何をさすのか分からないし、かわずくんが今どこにいるのかも僕には分からない。

「どこに? なにを?」

かわずくんは無駄なやり取りをしがちだ。

「ほんとヤバイ。刺された。助けて」

刺された? 包帯が必要か? いやいや、大変じゃないか

「救急車呼んだ方がよくない?」

僕は心配になった。

「救急車って笑」

刺されて何で笑ってられるんだ

「大丈夫なの?」

「ムリ」

「大量に出血してるとか?」

「軽く十箇所くらいやられた」

・・・穴だらけじゃないか。

「すぐ行くから場所を教えて」

メッセージを送ると、かわずくんは地図を送ってきた。

調べると、近所にあるカフェだった。

助けに行かなければ。

「死ぬなよ」

僕が送ると

「OK!」

とフランクな返信がきた。


そのメッセージを見ながら薬箱を覗く。

確か去年買ったやつがあるはず…

僕は目的の物を見つけて家を出た。


外は暑かった。

かわずくんはどんな悪いことをしてそんなに刺されたのだろうか。

などと呑気な事を考えながらカフェへ向かった。

途中本屋に行きたくなって寄り道をした。

読みたい本は無かった。

落胆していると、かわずくんから「おそい泣」とメッセージが届いた。

僕は「あと少し」と返信をする。


カフェに着いてかわずくんを探した。

店の角で俯いているかわずくんを見つけた。

近づくと小さい声でぶつぶつ何かを呟いてる声が聞こえた。

「かいちゃダメだ、かいちゃダメだ」

かわずくんは1人で孤独な戦いをしていたようだった。

「持ってきたよ」

そう言って僕は、痒み止めをバックから取り出す。

かわずくんはそれを乱暴に奪い取り、狂ったように全身に塗りたくった。

「大丈夫?」

「遅いよ、どうせ本屋にでも行ってたんだろ」

かわずくんは恨みのこもった声で言う。

そして続けて、パフェを奢れ!などと訳のわからない事を言ってきた。

「何でそんなに刺されたのさ」

僕が聞くと

「公園のベンチで寝ちゃってさ」

少し恥ずかしそうにかわずくんは言った。

「もしかして、本読んでた?」

「そうなんだよ、よく分かったね」

そう言ったかわずくんは何故か嬉しそうだった。

前にも言ったが、かわずくんは本を開くとすぐに眠くなってしまう体質なのだ。

僕はなんだかかわいそうに思えてしまって

結局パフェを奢る事にした。

その頃には痒みはすっかりおさまったようで

ご機嫌なかわずくんだった。

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