現代語訳「我身にたどる姫君」(第二巻 その18)

 姫君の乳母である弁《べん》の君は、皇后宮《こうごうのみや》崩御の知らせを聞くと狼狽《ろうばい》し、すべてを投げ出して上洛したが、音羽山《おとわやま》には姫君さえいなかった。途方に暮れて宮の宣旨《せんじ》のもとに足を運んだところ、皇后宮が姫君を案じていた様子をはじめ、一部始終を詳しく聞くことができた。
(続く)

 弁の君(姫君の乳母)が久し振りに登場しました。
 序盤で夫と共に肥前(九州)に下ってしまったため、これまであまり語られませんでしたが、姫君の乳母を任されるほど故・皇后に信頼されていた人物で、宮の宣旨と尼君とを合わせた「チーム皇后&姫君」の一人です。

 ところで、弁の君は音羽山に足を運んだのに、尼君から姫君の居場所を教えてもらえなかったのが少し妙な気がしますが、皆さんはどう思いますか。
 わたし自身は、1) (「姫君さえいなかった」という表現から)尼君はたまたま不在だった、2) 周囲の者たちに話が漏れる危険性を考慮して、尼君はあえて話さなかった(宮の宣旨から真実が聞けることを見込んでいた)、3) 作者のミス、のいずれかだと考えています。
 もうひとつの可能性として、「実は弁の君と尼君はあまり仲がよくない」というのもあります。ただ、二人が仲たがいしていたとすると姫君に悪影響を与えそうですし、弁の君の娘である侍従《じじゅう》の君が一の女房として重んじられていることとも合わないため、恐らく違うと思います。

 それでは、また次回にお会いしましょう。


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