現代語訳「我身にたどる姫君」(第一巻 その26)

 上手《うま》く辿《たど》り当てた縁だと喜ぶ権中納言はこれにかこつけて、不慣れな恋心でひたすら気持ちがままならないことをほのめかしながらひどく嘆いた。
 相手の態度に尼君は当惑した。
「確かに世間から隠し続けるのは難しいと思っていたものの、人目の少ない、巌《いわお》に囲まれた場所だから大丈夫だと安心しきっていた。そもそも最後まで隠しおおすのは無理な話で、見苦しいやり方だったかもしれない。それにわたし自身、姫君が何者なのか知りたいと思っている。いずれにしても、素性が明らかになれば姫君の将来も定まるだろう」
 尼君は改めて、これまでずっと不明で気掛かりだった姫君の因縁《いんねん》を知りたいと思った。
(続く)

 権中納言に姫君の存在がばれてしまいましたが、尼君は自分の失敗に落ち込むことなく、姫君が世に出るいい機会になるかもしれないと、早くも気持ちを切り替えています。尼君のきっぱりとした性格・行動力を示すエピソードですが、一方で以前から「自分の手元で育て続けるのは姫君にとって幸せなことではない」と悩んでいたと思われます。

 また、尼君が姫君の素性を知らない事実が明らかになりました。実母ではないことは既にほのめかされていましたが、姫君を託された相手から詳しい事情を聞かされていないようです。
 十年以上もの間、我が子(孫)のように育ててきた姫君の素性を知りたいと思っているのはただの興味本位ではなく、姫君の未来のため、可能なら後見できる者に任せたいと思う気持ちから来ていると思われます。

 余談ですが、今回は文章が難解で、少し意訳した箇所があります。参考にしている書籍もそれぞれ書いてある内容が異なり、誰もが苦慮したようです。
 現代の日本語で書かれていない作品(古語や外国語)をわざわざ原文で読む必要はありませんが、訳者によってセリフの発言者が変わったり、登場人物の性格が変わったりするのはよくある話です。お気に入りの古語/外国語作品は、できるだけ複数の翻訳に目を通すことを強くお勧めします。

 それでは、また次回にお会いしましょう。


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