現代語訳「我身にたどる姫君」(第二巻 その22)

 年の暮れ、二宮は雪や霰《あられ》が激しく降る荒々しい風の音にいざなわれるように音羽山に向かった。「無駄だとは分かっているが、せめて跡だけでも」といつものように山に踏み分け入ると、以前にもまして屋敷は閑散とし、打ち捨てられた樒《しきみ》の葉の中で尼君が悄然《しょうぜん》としゃがみこんでいた。
 甲斐《かい》のないことに心を乱し、かつて姫君のいた場所でひたすらしのぶ二宮の姿に、尼君は「これはあってはならないことだ」と困り果てた。
(続く)

 姫君や若い女房たちが去った後の音羽山の様子が描かれています。
 今や屋敷を訪れる者も稀《まれ》で、抜け殻のようになった尼君が寂しく暮らしていますが、唯一、二宮だけは悪天候でもやって来て、姫君のいた部屋で思い出にふけっています。

 なお、第一巻の冒頭でも触れましたが、音羽山は滋賀県大津市(京都府と滋賀県の県境)にあり、比較的雪の多い場所として知られています。

 それでは、また次回にお会いしましょう。


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