現代語訳「我身にたどる姫君」(第二巻 その13)

 関白は姫君に声を掛けた。
「あまりにも籠《こ》もりきりですね。その几帳《きちょう》は押しのけた方がいいのではありませんか」
 人からはっきりと言われてはいないものの、どうやら関白が自分の父親らしいと察していた姫君は、ますます恥ずかしく、ひどく落ち着かなかった。かつてのように嘆かわしいほど軽々しく扱われることはないはずだと今は人心地がつき、このように父親と話をするのは夢のような気がしたが、直接面と向かうのはひどくきまりが悪く、顔を少し赤らめた様子はいつにも増して美しく、何にも例えようがなかった。
(続く)

 関白が父親だと察している姫君は、嬉しさと恥ずかしさで顔を赤らめています。母の死去から間もない時期で、まだ悲しみが完全に癒えていませんが、生まれて初めて知った親のありがたさを心からかみしめているようです。

 それでは、また次回にお会いしましょう。


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