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現代語訳『さいき』(補足その1)

 ここでは、何度か取り上げてきた「『さいき』改変説」について改めて整理をします。

 現存する『さいき』にはいくつかの問題が存在し、複数の作者が関与した可能性を示唆しています。

①女が手紙を託した僧の移動方向がおかしい
 →京で出会った「鎌倉へ下りける僧」が九州に向かっている

②女の手紙にある、八幡神に関する歌の意味が不明
 →女が帰依する清水寺の観世音菩薩は、八幡神とは無関係

③女の別邸を用意する期間が短すぎる
 →佐伯荘と京の往復に要する二ヶ月は現実的ではない

④清水寺の観世音菩薩の救済によって三人が阿弥陀三尊になった
 →菩薩(修行者)が如来(仏)を救っている

上記の問題点は、改変前に以下の設定だったと仮定すると解消します。

・女が住んでいたのは鎌倉
 →①③が解消

・女が帰依していたのは鶴岡八幡宮の八幡神
(※鎌倉以降、八幡神は阿弥陀如来や釈迦如来と同一視された)
 →②④が解消

 仮に「鎌倉の鶴岡八幡宮」が初期バージョンだったとした場合、「京都の清水寺」に改変された理由については、鎌倉幕府の栄光に関する記述を消すためだった可能性が考えられます。つまり、初期版は鎌倉時代、現存する底本は室町時代に完成したことが推察できます。

 また、タイトルになっている「佐伯」にほとんど魅力がなく、単なる狂言回しでしかないのに仏になったのも、本来はまったく別の設定だったかもしれません。その場合、鶴岡八幡宮は武家の守護神であることから、何らかの武功を立てた勇ましい武士だった可能性があります。
(鎌倉時代に九州での活躍というと、元寇(文永・弘安の役)が思い浮かびます)


 それでは次回にまたお会いしましょう。


【 主な参考文献 】


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