現代語訳「我身にたどる姫君」(第二巻 その66)

 権中納言は屋敷の中や姫君のいる対屋《たいのや》にも足を運ばず、沈んだ様子で伏せ続けた。心を慰める術《すべ》のないまま塞《ふさ》ぎ込んだ末に、密《ひそ》かに中納言の君を呼び寄せ、女三宮の様子を伝え聞いていつものように思いを馳《は》せて涙を流した。
(第二巻 了、第三巻に続く)

 権中納言は仮病を押し通して寝込んだままでいる一方、心を慰めるために中納言の君(女三宮の女房)を屋敷に呼び寄せます。
 やや意外な展開ですが、権中納言と中納言の君は少し前から肉体関係があり、ほぼ主従関係にあると言ってもいいかと思います。

 今回の件で一番利を得た人物――それは他ならぬ中納言の君です。
 以前からお伝えしているように、この『我身にたどる姫君』の想定読者はやや低い身分の女性だった可能性が高く、中納言の君を立てたのは一種の読者サービスだったとわたしは考えます。

 さて、これにて第二巻は終わりになります。
 前巻の最後に皇后宮が死去したことがきっかけで、姫君が都の関白邸に引き取られ、その姿に心を奪われた権中納言は色好みの道を突き進み、結果として女三宮は権中納言に手込めにされてしまいました。――この巻は、皇后宮の二人の娘と権中納言の物語だったと言えます。

 次の第三巻は第一部の締めとなる巻です。
 権中納言の結婚だけでなく、すべてに決着がつきます。

 それでは、次回にまたお会いしましょう。


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