現代語訳「我身にたどる姫君」(第一巻 その6)

 姫君には、弁《べん》の君の次女で侍従《じじゅう》の君という女房が片時も離れずに仕えていた。彼女には少将《しょうしょう》の君という姉がいたが、父が筑前守《ちくぜんのかみ》に任じられたのと同じ頃に、蔵人《くろうど》から五位に叙《じょ》せられて肥前守《ひぜんのかみ》になった男と結婚し、ちょうど具合がいいからと弁の君たちと一緒に晴れ晴れしく下っていってしまった。
 残った古参の女房たちの中には、世情をわきまえ、所在ない折々に姫君の慰め相手として語り合えるしっかりとした者がいなかった。不安に感じた尼君はある宰相《さいしょう》の娘に両親がいないことを伝え聞き、気の毒に思って屋敷に迎え入れたが、この宰相《さいしょう》の君はいつも亡き両親を恋い慕って泣くばかりで、何とも陰鬱《いんうつ》な有様《ありさま》だった。
(続く)

 今回は新たな女房が立て続けに登場しました。
 できることなら軽く流しておきたいところですが、ここで挙がった「侍従の君」(乳母の娘)と「宰相の君」(新人)の二人は今後も何度か登場しますので、少し気に留めておいてください。
 しかし、いずれも若く、やや頼りなさげな感じです。姫君は両親がいない上に乳母とも離ればなれで、女房にもあまり恵まれていないことから、年の離れた尼君だけが頼みの綱と言えます。
 また、繰り返しになりますが、いくら後ろ盾がないからとはいえ、「宰相」という朝廷の重要職にあった者の娘を一女房として気軽に引っ張ってくることができるのは、姫君や尼君のバックに並々ならぬ有力者がいることを物語っています。

 それでは、また次回にお会いしましょう。


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