現代語訳「我身にたどる姫君」(第二巻 その2)
しばらくすると、これまで見たことのない、立派な身なりの男が忍んでやって来て引き取られることになった。姫君は言いようもないほど気後れしたが、どうしたわけか、昔から会いたいと願っていた父親ではないかと思い当たり、頼もしく思いながら屋敷を移った。
男は姫君を一目見ただけで涙に暮れて取り乱したものの、すぐに手際よく服喪《ふくも》の準備を指示し始めたため、「いったいどのような不幸が起きたというのか」と悲しい気分で当惑していたが、やがて女房たちの隠しきれない噂を耳にして次第に自分の素性を察し、もう二度と母親に会うことができない悲しみに打ちひしがれた。
(続く)
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皇后の死後、関白が宮の宣旨《せんじ》の里にやって来て、姫君を引き取ったときの状況が語られています。姫君は自分を連れ出した男(関白)が本当の父親で、母親(皇后)が死去してしまったことを悟ってしまったようです。
物語の冒頭、都から離れた地でひっそりと暮らしながら「我身をたどりたい(自分が何者なのか知りたい)」と思っていた願いはかないましたが、結局、母親と再会できぬまま死に別れてしまったことに茫然としています。
それでは、また次回にお会いしましょう。
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