現代語訳『伽婢子』 入棺之尸甦怪(2)

 大内義隆《よしたか》の屋敷で女房が死去し、野に送り出して埋葬しようとしたところ、突然息を吹き返した。打ち殺すのはあまりに気の毒だと連れて帰って剃髪《ていはつ》にし、僧衣を着せて無理やり尼にしたが、半年ほど後に死んでしまった。果たしてその年、義隆は家臣・陶《すえ》尾張守《おわりのかみ》によって国を追い出されてしまった。
 また、永禄《えいろく》年間、光源院殿(足利義輝《よしてる》)の家で使っていた下部《しもべ》が急死した際、二日間安置したが生き返らなかったので、若い下部《しもべ》たちが屍《しかばね》を千本《せんぼん》に埋葬しようとした折に急に蘇生した。撲殺して埋めようとしたものの、手を合わせて泣き叫びながら助命を嘆願したため、さすがに気の毒に思って連れて帰り、部屋で安静にしていたところ、四、五日の間に普段の状態に回復した。その年の五月、三好・松永が謀反を起こした。
 屍《しかばね》は陰の気で、蘇《よみがえ》ると陽になる。これは下の者が上を侵す前兆だという理由で、葬場《そうじょう》で蘇生したものは二度と家には帰さずに打ち殺す。これは理にかなったことであろうか、それとも不合理なことだろうか。ともあれ、死人の一族の大半は生き残っているのだが。
(了)

 今回で『入棺之尸甦怪』は終わりとなります。
 前回にお伝えした「蘇生は下克上の兆し」という言い伝え(中国の易)を裏付ける日本のエピソードが二つ紹介されていました。

 次回からは新しいエピソードをお届けします。それではまた。


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