現代語訳「我身にたどる姫君」(第一巻 その53)

 だからといって、行方を知っていようといまいと、尼君に恨み言を述べても甲斐《かい》がなく、どうしたらいいかと思い乱れ、ほろほろと涙を流した。
「何とも申し上げる言葉がありません」
 そう言いながら姫君のいた部屋に行くと、身に着けていた衣をはじめ、物が打ち掛けてある様は確かにあの夜のままで、他所《たしょ》に移ったようには見えない。
「それならば、権中納言と心を通じて誘われ出たのだろうか」
 思い悩み、よよと泣く二宮は帰ることもできなかった。
(続く)

 姫君の着物や私物がそのままになっているのを目にした二宮は、「突然いなくなった」と言う尼君の言葉を信じて泣き崩れます。
 なお、部屋が片づいていないのは、慌ただしく都に移ったのが一番の理由ですが、尼君の心がまだ整理できていないことも現しています。

 それでは、また次回にお会いしましょう。


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