現代語訳「我身にたどる姫君」(第二巻 その26)
「ああ、胸が苦しい。どうしたらいいだろうか」
障子を引いてみたが、厳重に鍵が掛かっていて開かない。とりとめもなく衣の裾《すそ》だけを慰めに見て立ち明かすことも考えたものの、人に見咎《みとが》められると体裁が悪い。
権中納言は日頃から親しくしている中納言の君の局《つぼね》に寄って戸を叩いた。だが、あいにく女三宮《おんなさんのみや》の御前《ごぜん》で休んでいたために不在で、別の女房が無愛想な声で「誰ですか」と尋ねた。
権中納言は気落ちしながら答えた。
「大切な話がある者がやって来たとお伝えください」
その女房は、雪が白く積もった簀子《すのこ》に踏み入って行くのも寒くて面倒だと思ったが、仕方なく起き上がり、中納言の君をたたき起こして連れてきた。
(続く)
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女三宮を目の前にして帰ることができない権中納言は、親しい女房(中納言の君)に仲介を頼むことにしました。
それでは、また次回にお会いしましょう。
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