現代語訳「我身にたどる姫君」(第一巻 その32)

 かつて手引きをした宮の内侍《ないし》も、皇后宮《こうごうのみや》の不興を買って居づらくなった末に死去してしまったため、関白は心の内を伝える伝《つて》を失ってしまった。ただ、普段の政《まつりごと》や帝のご機嫌うかがい、人からの要望などの折々の公務にかこつけて、「永遠に絶えぬ嘆きを分かって欲しいと」と、むなしく空を頼みにするしかなかった。
 度重なるにつれて皇后宮も気の毒だと感じるようになり、以前に思っていたような、軽々しく扱って自分を悩まそうとする女遊びだとは考えなくなったが、だからといって浅はかな浮名を立てるわけにはいかないと、いっそう堅く決心したようだった。
(続く)

 何とかして皇后に気持ちを伝えたいと思う関白と、逆にできるだけ距離を置こうとする皇后の静かな攻防が描かれています。改めて見ると、皇后が今の地位を保っていられるのは関白が恋い慕っているからであり、非常に危うい関係であることが分かります。
 関白の気持ち一つでバランスが保たれている現状は、読者から見るとまさに悲喜劇と言えます。

 それでは、また次回にお会いしましょう。


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