現代語訳「我身にたどる姫君」(第二巻 その14)

 恥ずかしがる姫君の姿を一目見た権中納言は、思い掛けなく心が騒いだ。髪の掛かり具合や袖の重なる様などが不思議にも音羽山《おとわやま》の姫君にそっくりであることに気づいたものの、音羽山では柱に隠れてよく見えなかった上に、侍従《じじゅう》の君から筋の通った話を聞いていたために、本人だとは思い至らなかった。
(続く)

 照れる姫君の美しい姿を見て、権中納言は胸が騒ぎます。音羽山の姫君と面影が似ているのを不思議に思うものの、そもそも音羽山ではっきりと顔を見たわけではない上に、侍従の君(姫君の女房)の嘘を信じ込んでいますので、いまだに同一人物だとは気づいていません。

「我身にたどる姫君」の第一部(第一巻~第三巻)において、権中納言は二宮と並ぶ最高の美男子なのですが、どちらも作者の扱いは割とぞんざいで、三枚目的な役を与えられています。
 少し見方を変えると、作者や想定読者が、支配階級にある皇族や摂関家の男たちの滑稽さを笑って楽しめる立場(身分)だった可能性が高いと思われます。(やや下の身分の者に仕える人々だったと考えると、色々とつじつまが合います)

 それでは、また次回にお会いしましょう。


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