現代語訳「我身にたどる姫君」(第二巻 その9)

 姫君の出自を隠すために賤《いや》しい身分だと思われるのは本末転倒だと考えた関白は、かつて人目を忍んで通っていたある女から生まれた子どもということにした。兵部卿《ひょうぶきょう》の娘で、親族が一人もいない上にいつ死去したかも知られていなかったことから、面と向かって異を唱える者はいなかった。
 関白が急に姫君を引き取って世話をし始めたのを、北の方は奇妙に思っていた。しかし、それほど高貴な身分ではないのにもかかわらず、類《たぐ》い稀《まれ》な人柄で寵愛《ちょうあい》を受けた女だったため、万事につけて関白と同じ心で姫君の世話を指示した。
(続く)

 関白は世間に対して、姫君はとある貴族の娘の子どもだと言い繕いましたが、誰もこの嘘に気づいていません。
 また今回、関白の北の方の人となりが初めて描写されました。人柄のよさで愛された女性ということで、関白の行動に口を挟むことはなさそうです。

 それでは、また次回にお会いしましょう。


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