現代語訳「我身にたどる姫君」(第二巻 その6)

 関白は北の方が産んだ女君が気の毒に思えるほどに姫君を溺愛した。このことを耳にした中宮は、いったいどこからやって来た天女なのだろうと驚き、不思議に思った。皇后宮《こうごうのみや》亡き今、中宮は嫉妬することもなくなり、二人は申し分のない兄妹の仲になっていた。以前から一刻も早く女君を東宮《とうぐう》と結婚させるように催促していた中宮は、「女君と姫君を一緒に東宮参りさせたらどうだろうか」と思い立ったが、関白は気乗りしなかった。
「もし、二人を同時に入内《じゅだい》させたら、妹が肩入れしている北の方の娘がこの上なく寵愛されるに違いない」
 悩んだ末に、「ただ順番通りに」と女君のみを入内させることにした。
(続く)

 関白の北の方の娘である女君(権中納言の妹)と、新たに屋敷に迎え入れられた姫君の処遇について、関白・中宮がどうすべきか相談している様が描かれています。以前から中宮が望んでいた通り、女君は東宮と結婚することになりましたが、姫君の扱いについては未定のようです。

 なお、今回の内容は訳者によって解釈が異なり、文中の「女君」を「女四宮(中宮の娘)」とする訳があります。しかし、この先、東宮と結婚するのは女君であり、もし中宮が本気で自分の娘を東宮と結婚させたいと考えていたのならごり押しして実現したはずですので、女四宮であるのはやや無理があります。

 また、関係図を見ると分かるように、東宮と女四宮は異母兄妹の関係になります。皇后が生前に異母/異父兄妹間の恋愛を極度に恐れていたことから、この物語の世界ではタブー扱いだったと思われます。関白が姫君と東宮の結婚を許可しなかった理由として、二人が異父兄妹であることも一因だったと考えると話が素直です。

 それでは、また次回にお会いしましょう。


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