現代語訳「我身にたどる姫君」(第一巻 その33)

 このような事情のため、関白は一人娘の東宮《とうぐう》への入内《じゅだい》をためらい、「皇后宮《こうごうのみや》から一言でも声を聞くことができたら」と心待ちにしていたが、中宮にしてみれば何とも無情な宿世《すくせ》であった。
 皇后宮は日頃から遠慮深く、身近な人にさえ心の内を打ち明けることがないので、まして関白に対しては、どんな折であろうと気持ちを漏らすことはない。ただおおらかに振る舞う皇后宮の様は、関白にとってはまったく甲斐《かい》がなかった。
(続く)

 関白は皇后から声を聞きたいと思うあまり、東宮(皇后の御子)への娘の輿《こし》入れも手札としてちらつかせているようです。ここまで来ると一途《いちず》を通り越して異常だと言わざるを得ませんが、世間的には妹の中宮が邪魔しているように見えるに違いありません。

 それでは、また次回にお会いしましょう。


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