現代語訳『伽婢子』 和銅銭(2)

「あなたの帽子は、日本で作られた物とまったく似ておりません。外側が丸く、内側が四角なのはどうしてなのですか」
 昌快《しょうかい》の問いに男は答えた。
「およそ天地万物の形は種々様々とはいえ、突き詰めると丸形と方形の二つ以外にはありません。わたしは外を丸く、中心を四角にしています。天の形は円で、地の形は四角です。丸い物は偏りがなく、四角は正しい物です。このため、わたしの道は万物に偏らず、万物から外れることもなく、常に正しく、曲がってゆがむことはありません。これを現した帽子を頭に被《かぶ》っているのです」
「あなたの直衣《のうし》は細い糸で織られており、とても軽く、薄い生地です。これはどこの国で織ったものですか」
「これは五銖《しゅ》の衣といいます。天上の衣は三銖と言いますが、下天の衣はすべて重い五銖・六銖です」
 昌快はいよいよ相手が人間ではないと思い、重ねて尋ねた。
「あなたは本当は何者ですか。どうか名乗ってくれませんか」
 男は笑って答えた。
「僧都の深い道心に感じたので、ここに来て物語をしたまでです。今、ここで名乗らなくてもすぐに分かることでしょう。今日はもう日が暮れてきたので、これにて失礼致します」
 そう言って座を立ち、外に出た。昌快が後ろ姿を見守っていると、庵から東に二十間《けん》ほど先にある竹やぶの前で男の姿は見えなくなった。
(続く)

「万物は丸と四角からできていて、丸は平等を、四角は正しさを現している」と言うこの男、「自分の外側は丸で中心が四角」と言っていますが、いったい何のことを言っているか分かりますか。

 続きは次回にお届けします。それではまた。

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