現代語訳『さいき』(その2)
数日後、外陣《げじん》で何気なく周囲を見回していると二十歳前後の女が目に入った。世にも稀《まれ》な器量の持ち主で、翡翠《かわせみ》の羽のごとき艶《つや》やかな髪は、紺青《こんじょう》の立て板に唐墨《からすみ》を流し掛けたような色合い、三日月の眉墨《まゆずみ》は青々とし、愛らしい唇は瑞々《みずみず》しい赤い果実を彷彿《ほうふつ》とさせる。咲き誇る牡丹《ぼたん》に勝るとも劣らない、仏の生まれ変わりのような容姿は月を妬《ねた》み、花を嫉《そね》むほどで、水晶の数珠《じゅず》をまさぐりながら小声で念仏を唱えていた。
(続く)
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佐伯は清水寺の外陣《げじん》(礼拝堂)で「仏の生まれ変わりのような容姿」(原文は「三十二相のかたち」)という表現で描写される絶世の美女と出会います。物語は佐伯とこの女性、後に登場するもう一人の女性を加えた三人を中心に語られていきます。
それでは次回にまたお会いしましょう。
【 主な参考文献 】
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