現代語訳「我身にたどる姫君」(第二巻 その64)

 関白は「あまり外聞もよくないので、少しでも落ち着いたら参上しなさい」とだけ告げて、権中納言の体調が優れないことを隠そうとした。しかし、人の口には戸が立てられないもので、見舞客が次々にやって来て屋敷は騒然となった。
 このことを知った中宮は、「世の物笑いにされるのは困る」と嘆き、宮司《みやづかさ》を関白のもとに遣わして、早急に参内《さんだい》するように急《せ》き立てた。だが、権中納言は「どんなに言われても無理なものは無理です」と答えるばかりで、ひどく耐え難い様子で起き上がることもできない。関白と北の方はどうしたものかと困っているうちに、夜も明け方になってしまった。
(続く)

 権中納言は婚儀の当日になって、仮病でドタキャンしようとしています。
 意にそぐわない結婚をしたくない心境も分からないわけではありませんが、それならばもっと前から主張しておけばよかったというだけです。最初に登場したときの「何事もそつなくこなす将来有望な好青年」のイメージがどこに行ってしまったのかと心配になるくらい、駄々っ子振りを見せつけています。

 それでは、次回にまたお会いしましょう。


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