現代語訳「我身にたどる姫君」(第二巻 その17)

 権中納言は宰相《さいしょう》の君にも熱心に話し掛けた。しかし、元からひどく内気な性格のために近寄ることもできず、姫君の行方に繋《つな》がる筋が少しも見えないため、それ以上は付き纏《まと》わなかった。ただ、話しやすい侍従《じしゅう》の君とばかり語り合っていたことから、関白家の人々は「見慣れない若い女房を寵愛するとは珍しいことだ」と思っていた。
(続く)

 権中納言は音羽山の姫君の行方を追うために宰相の君にも声を掛けますが、こちらは引っ込み思案な性格のためにほとんど話すこともできず、結局、侍従の君とばかり親しくしたようです。
 ちなみに、王朝物語の舞台になっている平安中期の貴族階級において、男が意中の女と結ばれるためには、女に仕える女房と親しくなっておく必要があり、肉体関係を持つこともしばしばあったようです。(権中納言と侍従の君の関係がどこまで進んでいるかは、読者の想像に委ねられています)

 それでは、また次回にお会いしましょう。


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