現代語訳「我身にたどる姫君」(第二巻 その25)

 寝殿の方に歩いて行くと、故・皇后宮《こうごうのみや》のために護摩《ごま》を焚《た》いていた僧都《そうず》が寒さにうち震えながら出て行った。その際に戸を閉めなかったので、権中納言はすぐさま入れ違いに中に入った。
 とある障子から若い女房たちが寝ている気配がし、破れた穴から中の様子がよく見える。几帳《きちょう》が多く立て重ねてあったが、帳台《ちょうだい》の前で物に寄り掛かって伏している女三宮《おんなさんのみや》の姿がはっきりと目に入った。
(続く)

 権中納言は以前から憧れていた女三宮の姿を目にすることができました。しかもすぐ目の前で、無防備な姿で横になっています。
 ――お気づきでしょうか。かつて関白が皇后と強引に契ったのは、皇后が故院(父)の喪服で里に下がっていた折のことです。今の状況はその時とまるで同じです。

 ところで、冬の寒い時期に障子が破れたままで放置してあるのは、皇族の屋敷としてはあまり適切ではなく、かなり生活に困っていることが分かります。恐らく皇后の崩御後、関白からの支援が減ったのでしょう。
 帝が早々と退位の意向を表し、東宮が即位前に御所に移ったのも、ひょっとしたら現状を打破するための判断だったかもしれません。(=東宮が次期帝であることをアピールすることで、皇后の御子《みこ》たちへの援助を促すのが目的だった可能性)

 それでは、また次回にお会いしましょう。


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