現代語訳「我身にたどる姫君」(第一巻 その25)

 権中納言は当たり障りのない世間話をこまごまとし続け、夜が更けても帰ろうとはしなかった。好色めいた気持ちを押し隠したまま、何とか機会を作って気になる女の身の上を聞き出したいと、当て推量で尋ねるため、尼君はすっかり困り果てた。
「どうにも面倒なことになった。人より特に気が引ける姫君を知られてしまったとは」
 これ以上隠し立てをすると、かえって懸想《けそう》めいたことになる恐れがあって具合が悪いため、とっさに作り話でごまかそうとしたものの、すらすらと話すことができなかった。
「あの子は亡き夫が思い掛けず別の女との間に作った娘です。世を背いて山奥で暮らすわたしとしても不憫《ふびん》で気掛かりに思い、夫の形見として引き取って育てております」
(続く)

 いつまでも居座って「箏《そう》の女」に探りを入れる権中納言に対し、尼君は作り話で応戦します。人から追及されたときの説明をあらかじめ考えていなかったのは彼女の手落ちですが、自分をおとしめても姫君の秘密を守りたいと思う気持ちに偽りはありません。
 それでは、また次回にお会いしましょう。


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