現代語訳「我身にたどる姫君」(第二巻 その12)

 十一月の雪がひどく積もった朝、関白が対屋《たいのや》に渡る際に権中納言も同行した。
 関白はいつものように溢れる涙をこらえかね、心の慰めとして明けても暮れても目を離すことなく姫君を見守った。黒い喪服に零《こぼ》れ掛かった髪をはじめ、一面に輝く朝日と調和して照り映《は》える空の下、雪よりも白い肌の色が普段よりも格段にこの上なく見えたが、褒めそやす人もないのを口惜しく思った。
(続く)

 ある冬の朝、権中納言は父・関白と一緒に姫君のいる対屋に行きます。そこで目にしたのは、喪服に身を包んだ美しい姿でした。
「我身にたどる姫君」は衣装の描写が控えめですが、ここでは白(白い肌・雪・照り輝く朝日)と黒(喪服・黒髪)のコントラストがはっきりした、分かりやすい表現になっています。

 それでは、また次回にお会いしましょう。


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