現代語訳「我身にたどる姫君」(第一巻 その57)
その頃、姫君は上陽宮《じょうようきゅう》に閉じ込められているような心地でいた。頼もしく思っていた尼君の庇護《ひご》から離れ、どこなのかはっきりしない場所で大切にかしずかれる日々を物足りなく感じ、物思いにふけっていた。
屋敷の主《あるじ》は不在のことが多く、都とは言っても人の往来が少ない場所のようだが、出入りしている人々は堅く口止めされているのか、ここがどこなのか教えてくれる者もいない。音羽山の女房たちを少しずつ呼び寄せて数がそろい、以前とほとんど変わらなくなったものの、自分が化け物のような気がして薄気味悪く感じていた。
宮の宣旨《せんじ》は屋敷にやって来ると、いつも侍従《じじゅう》の君と弁《べん》の君の消息について詳しく話をしたが、侍従の君も相手の素性を知らないため、姫君はただ途方に暮れた様子で明かし暮らした。
明けぬ夜の夢路にたどる心地して
いつ晴《は》るくべき思ひなるらむ
(無明《むみょう》の闇の夢路で迷っているような憂鬱《ゆううつ》な気分は、いったいいつ晴れるというのでしょうか)
(続く)
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姫君は二人の兄たちからの求愛から逃れることができましたが、都の外れにある屋敷(皇后の女房である宮の宣旨の実家)に閉じ込められて窮屈な思いをしているようです。
久し振りに話題に上がった「弁の君」は姫君の乳母で、侍従の君の母親です。今は夫と一緒に筑前《ちくぜん》国に下っていますが、どうやら宮の宣旨とは旧知の仲で、頻繁に手紙のやり取りをしているようです。(この辺りの細かい事情は本筋にほとんど絡んできませんので、軽く流してもらっても構いません。)
ちなみに、「上陽宮《じょうようきゅう》」は中国の唐代にあった宮殿で、楊貴妃《ようきひ》が皇帝(玄宗《げんそう》)の寵愛を一身に集めたために、遠ざけられた他の女たちが集められて不遇な一生を送ったとされる場所です。
それでは、また次回にお会いしましょう。
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