現代語訳『伽婢子』 幽霊逢夫話(3)

「ところで、死んでから何か旨《うま》いものを食べているか」
「黄泉路《よみじ》では生臭いものを嫌いますので、普段、食しているのは粥《かゆ》です」
 粥を用意して並べると妻と余志子《よしこ》、老女は口にしたが、夜が明けた後に確認するとそのまま残っていた。
 食事を終えると、妻は忠太に向かって言った。
「六年前、産衣《うぶぎ》に包まったまま亡くなったあの子に会いたいとは思いませんか。今では随分大きくなっています」
「死んだときはわずか二歳だったが、来世でも年月を重ねて成長するのか」
「年月に従って成長するのは現世の人と変わりません。ですので、死んだ後の四十九日の中陰《ちゅういん》、一周忌から始めて五十年忌まで、この世と同じ年月で数えるのです」
 程なく死んだ子が現れ、目の前に跪《ひざまず》いた。年は七歳、容姿は麗しく、生まれつき利発聡明《そうめい》で大人びて見えた。忠太は涙を流しながら髪をかき撫《な》でた。
「もし、お前が生きていたら、母の忘れ形見として育てることもできたのだが。お前がこの世を去ってから、わたしたちは子に恵まれなかった。現世でこのように大きくなっていたら、さぞかし嬉しく思ったであろう。今夜を最後にまた会えなくなるのが何とも恨めしい」
 そう言って愛《いと》しい我が子をかき抱こうとしたが、雲煙《うんえん》のように手で触れることもできずに消え失せてしまった。
(続く)

 主人公は、幼くして死去した我が子と再会します。この世を去ったのはまだ産衣《うぶぎ》に包まれ、よちよち歩きをしていた二歳の頃でしたが、あの世でも成長するらしく、すっかり大きくなった姿を目にして主人公はむせび泣きます。

 続きは次回にお届けします。それではまた。

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