現代語訳「我身にたどる姫君」(第一巻 その50)

 姫君たち一行は夜がすっかり明けた頃に、都にある宮の宣旨《せんじ》の里に到着した。
 いつの間に用意したのか、美しく整えた立派な帳台《ちょうだい》の中に姫君は下ろされて、丁重に扱われた。これまで見たことのない華やかで見事な部屋のしつらいに、姫君は見知らぬ世に生まれ変わったような心地がして、ただぼんやりと眺めた。
 自分の母親ではないかと思われる人については、物心がついてから一度も見聞きする機会がなく、生死すらはっきりしないまま、ずっと「今もこの世にいるのだろうか」と悩んでいたため、宮の宣旨がその人なのだろうか、それとも違うのだろうかと明け暮れ思い乱れたが、誰も本当のことを教えてくれない。
 都へと移る道中、「親元に引き取られるのではないか」と期待していたものの、実際は落ち着かない都住まいで何もかもが甲斐《かい》のない日々に、つらい身の上だと姫君は嘆き続けた。
(続く)

 都(宮の宣旨の実家)に到着した姫君は、それまでとは異なるきらびやかな世界に驚きつつも、密かに期待していた両親との再会を果たせぬまま、憂鬱な日々を送ることになりました。
 なお、宮の宣旨が母ではないことは、相手の振る舞いでそれとなく察しているようです。

 それでは、また次回にお会いしましょう。


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