現代語訳「我身にたどる姫君」(第一巻 その50)
姫君たち一行は夜がすっかり明けた頃に、都にある宮の宣旨《せんじ》の里に到着した。
いつの間に用意したのか、美しく整えた立派な帳台《ちょうだい》の中に姫君は下ろされて、丁重に扱われた。これまで見たことのない華やかで見事な部屋のしつらいに、姫君は見知らぬ世に生まれ変わったような心地がして、ただぼんやりと眺めた。
自分の母親ではないかと思われる人については、物心がついてから一度も見聞きする機会がなく、生死すらはっきりしないまま、ずっと「今もこの世にいるのだろうか」と悩んでいたため、宮の宣旨がその人なのだろうか、それとも違うのだろうかと明け暮れ思い乱れたが、誰も本当のことを教えてくれない。
都へと移る道中、「親元に引き取られるのではないか」と期待していたものの、実際は落ち着かない都住まいで何もかもが甲斐《かい》のない日々に、つらい身の上だと姫君は嘆き続けた。
(続く)
★
都(宮の宣旨の実家)に到着した姫君は、それまでとは異なるきらびやかな世界に驚きつつも、密かに期待していた両親との再会を果たせぬまま、憂鬱な日々を送ることになりました。
なお、宮の宣旨が母ではないことは、相手の振る舞いでそれとなく察しているようです。
それでは、また次回にお会いしましょう。
※Amazonで現代語訳版「とりかへばや物語」を発売中です。
https://www.amazon.co.jp/dp/B07G17QJGT/