現代語訳「我身にたどる姫君」(第二巻 その61)

 女三宮に拒まれ、夜な夜な三条宮の周辺をさまよい歩く権中納言は仮病とすることもできなかった。古歌で「行きては帰る」と歌われたようにつらく苦しい思いに苛《さいな》まれ、気落ちしたまま出歩いたが、その甲斐《かい》もなくついに婚儀の前日になった。しかし、「もし姿を消したら世人《よひと》から愚かしい男だと笑われるだろう」と思うと身を隠すこともできず、茫然《ぼうぜん》としたまま夜を明かした。
(続く)

 婚儀が迫り、女三宮に拒絶されても屋敷の周辺をさまよい続ける権中納言の姿が描かれています。
 これを情の深い振る舞いだと感じる人もいるかもしれません。しかし、状況を打開しようと思えばできる身分なのに、叔母の不興を買うのが怖くて行動に移せないことを既に白状していますので、恐らく作者は「愚かしく滑稽な姿」として読者に読んでもらいたかったのではないかと、わたし個人は思います。

 それでは、次回にまたお会いしましょう。


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