現代語訳『伽婢子』 幽霊諸将を評す(12)

 このやり取りを目にした安左衛門《あんざえもん》は不可解に思った。
「そもそもこれは夢か現《うつつ》か。確かに恵林寺の庭だが、座にいるのは故人たちばかりだ。夢でなければわたしは既に死んでいて、ここは冥土《めいど》ということなのか。子細を尋ねよう」
 すると、法螺《ほら》貝と太鼓の音が響き、庭にいた人々が「心得た」と声を上げたかと思うと、そばにある太刀や刀を急いで取って駆け出し、一人残らず姿を消した。我に返ると安左衛門はただ一人、恵林寺の庭に座していて、夜がほのぼのと明けていた。
 あまりにも不可思議な体験に、急いで甲府に戻って信玄に対面し、密かに報告した。
「お前は狐に化かされ、そのようなつまらぬものを見たのだろう」
 信玄は一笑に付したものの機嫌を損ねたため、恐縮した安左衛門は郡内《ぐんない》に帰り、筆に記して箱の中に納めたという。
(了)

 幽霊たちの会話を聞いた主人公は、主の武田信玄にことの次第を報告します。しかし、信玄(+山本勘助)を侮辱するような内容だったため、怒りを買ってしまったようです。
「幽霊諸将を評す」は今回で終わりとなります。ここまでのお付き合い、ありがとうございました。
 次回から新エピソードをお届けします。それではまた。


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