現代語訳「我身にたどる姫君」(第二巻 その10)

 月日が流れても、帝は皇后宮《こうごうのみや》と慣れ親しんだ名残を、関白は離ればなれのまま死別してしまったことを思い続けていた。紛らわすことのできない悲しさが募るばかりで誰もが茫然《ぼうぜん》としている中、帝は東宮《とうぐう》の服喪が終わり次第、譲位するつもりでいた。
(続く)

 皇后亡き後、人々は悲嘆に暮れたままで、帝はこれを機に退位するつもりでいることが明らかになりました。皇后の崩御を理由に譲位するのは極めて異例ですが、それほどまでにつらく苦しい出来事で、このまま自分が皇位にい続けるのは世のためにもよくないと考えているようです。

 帝はこれまであまり文中に出て来ませんでしたが、ごく少ない情報量で人となりや皇后への愛情、摂関家との関係、世人の評判などが分かる書き方は個人的に見事だと思います。(登場シーンの少ないキーマンの立て方が上手いです)

 それでは、また次回にお会いしましょう。


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