現代語訳「我身にたどる姫君」(第二巻 その7)

 権中納言はいつまでもぼんやりしたままではいられないので、姫君がいる対屋《たいのや》に顔を出してみたところ、奇妙にも見覚えのある若い女を見掛けた。誰だったかと思いを巡らし、音羽山《おとわやま》で会ったことのある女房だと思い出したが、どういうことなのか状況がまったく理解できない。あれこれと悩んだ末に、しかるべき機会を作って声を掛けた。
「奇《く》しくも、思い掛けない場所で声を耳にした気がします。隠し立てするとはひどいではありませんか。結局、このように分かってしまうことだったのです」
(続く)

 権中納言は自分の屋敷で、かつて思いを寄せていた姫君に仕える女房(侍従《じじゅう》の君)を目にして混乱します。「姫君は尼君の夫の隠し子である」と信じ込んでいるため、よもや関白が引き取った妹と同一人物だとは思いも寄らないようです。

 それでは、また次回にお会いしましょう。


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