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『近畿地方のある場所について』―"識る"怪異

もともとカクヨム連載版を先に読んで面白かったので、特典袋綴じもついている書籍版も気になり読了。


最近のホラー界隈ではモキュメンタリーホラーがブームで、これもある種そういった類の作品である。

一見、オムニバス形式の不気味な体験談や雑誌記事の切り抜きが創作とは思えないクオリティで羅列されるが、読者は徐々にそこに共通点を見出すことになる。そしてこの小説の本題である”とある友人に関わる情報を集める筆者の寄稿”を軸に、我々読者もこの小説という怪異に取り込まれていくのだ。


一つ一つのエピソードが非常に不気味で、ジャパニーズホラーとは異なった生々しい雰囲気がある。これも近頃のホラーの傾向に多く見られる。明確に幽霊は出てこないけど、明らかにおかしい存在と遭遇した…かもしれない、じわじわと知人の様子がおかしくなっている…気がする。リアリティを追求した表現を駆使し、誰でもがその体験をする対象になり得るのだという第四の壁を越えるエンターテインメントである。


最近のこういうリアルホラーが生まれる傾向には2chの洒落怖の影響が濃いと思っている。もう十数年以上前から立てられている名物スレッド「死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?」の中で匿名の人間が書き込む体験談に惹きつけられる人は多い。洒落怖はググるだけでたくさんのホラー短編が摂取できるオープンなお手軽コンテンツであり、そこに書かれた「創作ではない本当にあったかもしれない怖い話」は現実に存在している自分の心に他人ごとではない恐怖感を与えてくれる。

実際、本書にも匿名掲示板のスレッドのやり取りがそのまま切り抜かれている章がいくつかあり、作者も少なからずそこの影響を受けていることは確かなように思えた。


その中でも特に取っ掛かりが多い要素は土着信仰だ。どうしても日本で長く生活している人にとってはこの日本にまつわる土着的な要素(端的に言えば因習村的なアレ)はとても興味をそそられるものであり、イメージも湧きやすい。この"近畿地方のある場所"というフレーズも非常に巧妙で「匿名だけど頑張れば特定できるレベル」と思わせる。世代なら「これぞ洒落怖ホラー!」と嬌声をあげる要素の一つである。

土着信仰は調べれば調べるほど”識ってはいけなかった”というオチに繋がるのが定番だ。だけど、何故か識らずにおれないという人間の欲望が結果的に怪異を拡散することになったりする。自己責任系もその類。


さあ、私から多くは話せないが、皆さんはこれを識る勇気はあるだろうか。







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