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【ネタバレあり感想】仮面ライダーBLACK SUNに、わたしたちは何を感じるべきなのか

10月28日0時から、Amazonプライムで『仮面ライダーBLACK SUN』が配信スタートとなった。
全10話で、僕もついさっきまで視聴していた。

本作は言うまでもなく、原作石ノ森章太郎で1987年に連載スタートとなった傑作漫画が下地であり、同じく1987年放映のテレビ特撮番組『仮面ライダーBLACK』の要素も相当組み込まれている。
いわゆるリブートのような作品となっているが、三神官にせよビルゲニアにせよ、キャラクターの属性はテレビシリーズと似通った部分は少なくない。

テレビ版とも原作とも大きく違うのは、仮面ライダーシリーズが50周年を迎えた記念作品であることもを恐らく踏まえて、50年以上前の日本で起きた学生運動のようなエッセンスが回想で大きく取り入れられた点だろう。

学生運動めいた怪人たちをとりまく環境改善劇が回想として頻繁に登場

これに関して、拒否反応を見せる人も多くいるかもしれないが、個人的には「昔そういうことがあったんで、時代のアイコンとして使ったんだろうな」ぐらいの認識にとどめておくこととした。

社会を変えられると信じて当時の学生たちは熱狂をしたようだが、本作では1970年代に人間と怪人という存在の立場の違いや、怪人差別に義憤を感じた有志たちの社会運動みたいな形でデモクラシーが起きたということになっている。
その中にはいわゆる“統括”にインスパイアされたであろう仲間内での粛清劇なんかもあるんだけども、別に昔の闘争を美化したような話にはなっていない。この辺のバランス感覚は悪くなかった。
ビルゲニアやダロム、バラオム、ビシュムたちが当初は同じ目的の下に集っていたものの、時の総理の提案に屈する形で三神官が政府に与するようになったり、ビルゲニアは反発して投獄されるも後に屈辱的な仕打ちを受け入れて、その総理の孫の参加に加わったり。

怪人たちが人間に虐げられる存在であることの説得力が凄い

怪人たちの群像劇を謳う本作であるため、敵、味方問わず様々な怪人たちが自分の思惑と言うより、生きていくために泥水をすすって立場を確立する様子が、見ていて物悲しかった。

それこそ直接的な戦闘力に関しては、人間よりも高い怪人なんて何体も登場するけど、『寄生獣』みたく個体としての強さがいくら高くても、群体としての力は微々たるもので、総合的には種としてはか弱い存在として描かれているのが、本作の怪人たちの全体イメージとなる。

ましてや市井に紛れて暮らす下級怪人たちなんて、撃たれれば死ぬしリンチに遭えば死ぬ。
純粋に戦闘力で驚異的な描かれ方をした通常怪人はわずかで、アネモネ怪人(演:筧美和子)なんかがその筆頭だった気がする。
それこそ怪人が持つ恐怖性、怪奇性はほとんどアネモネ怪人が担っており、三神官もビルゲニアも、強いけれども恐ろしい存在という描かれ方はさほどされていない。

劇中では1972年と、恐らく2022年現在の2つの時間軸が主に交差する作品になっている『仮面ライダーBLACK SUN』だが、現代パートで目に付くのはどこかで見た民族差別、ヘイトスピーチ、それに反対する非差別者側のカウンターデモ、直接的な衝突を防ぐために間に入る警察たち、遠巻きにそれを写メする無関係な一般市民たちといった具合で、なんか22時台のニュースを観ているかのような、暗澹たる気持ちにさせられる。

僕は右でも左でもない立場だと自認しているけど、日の丸を掲げて「怪人たちに人権があるのがおかしいんです」とスピーカーでがなり立てるヘイトスピーチの扇動者と(演:今野浩喜)、汚いドヤみたいなところで身を寄せ合って暮らす怪人、在日の人たちとの対立は、なんかこう、心を削られるような気持ちになった。

それこそ下級怪人の一人にはスズメの姿になれて、多少飛べる程度のスズメ怪人もいるんだけど、この怪人の両親は、一方が怪人。一方は人間。
狭間の子みたいな扱いで重要な立場でもあるんだけど、結局彼は前述のヘイトスピーチ集団に暴行を受けて死んでしまうわけで。
その暴行を見ていながら助けもしない“普通の私たち”の描写もリアルだった。

怪人とは恐ろしい存在、強力な存在であるという認識が当たり前になっている特撮オタクとしては、ここまで怪人を……それこそ三神官レベルですら政府の傀儡にさせるほどに弱い立場にする必要はあったのか? というのは感覚として抱いたところである。
ただし、本作における怪人の出自ってテレビ版と違って、80年ほど前に人体実験で生み出された生物兵器群の生き残りか、その子孫。
しかも性能もピンキリ。
なので弱小怪人が撃たれたり、火あぶりにされるというシーンの描写には、一定の説得力はあった。

上級怪人が、いわゆるテレビシリーズの“今週のゴルゴム怪人”枠ぐらいの強さだとすると、下級怪人は戦闘員みたいなものなのである。
だからヘイト集団によってたかってなぶり殺しにされるというのも、納得したくないが理屈としてはよくわかる。
しかしこの設定のおかげで、「改造人間」というワードが久々に仮面ライダーシリーズを彩ったわけで、功もあれば罪もあるといった塩梅。


安倍元総理がモデルであろう現職総理がいささか悪辣過ぎる

一方でどうにも気になったのが、劇中に登場する首相・堂波真一(演:ルー大柴)の存在だ。
とにかく一見すれば分かるが、堂波政権の面々は旧安倍政権のそれをモチーフにしていると思われる。麻生太郎氏そっくりの表情と態度で、堂波首相の隣に坐する寺田農氏の存在が印象深い(ちなみに立憲民主党の蓮舫氏の記号を当てはめた、うるさい野党議員も登場する)。

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