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柴田七美展 Resolution

2023年11月3日(土)~19日(日)に開催いたしました柴田七美展について、遅ればせながらお伝えしたいと思います。

展覧会では、一枚のキャンバスに一人の人物が大きく描かれた作品が並び、油絵具の物質性を強く感じられる筆跡が印象的でした。
この個展の後にアートフェア東京とKobe Art Marcheへの出品、福岡での個展を終え、更には今年8月末から9月にかけて京都蔦屋での二人展(詳細はブログ最後に)も控えている柴田七美先生。
展覧会中に行われたトークイベントの内容を元に、今のスタイルに至った経緯、東京店での個展の様子などをご紹介していきます。

左:「無題」、キャンバス・油彩、F30号、 2023年
右:「無題」、キャンバス・油彩、P40号、2023年

タイトルの「Resolultion」とは?

まずは、個展タイトルの「Resolution」に込められた意味から。
Resolutionとは、英語で解像度という意味を持っており、この展覧会の作品で、柴田先生はイメージと物質という二つの面から絵画の解像度を操作をしているのです。

イメージの解像度
キャンバス上の人物は、映画や演劇といったフィクションからインスピレーションを受けて描かれています。
そして、最初にそれらの人物を描こうと思った時点では、先生の頭の中にハッキリとした描きたい人物像が存在しているそうです。
しかし、絵にするときには敢えてその人物像を曖昧にしていきます。作品を見た人が、一層絵に入り込めるようにするために。これが、イメージにおける解像度の操作なのです。

同時に操作されるのが物質の解像度
作品を生で見たときの質感に驚かれている方が多かったこの個展。
画廊から発送しているご案内状やSNSの写真では伝わらない絵具の盛り具合と筆跡は、柴田先生のこだわりのひとつなのです。
見る人が油絵具の物質感を感じられるように描かれており、それを特にわかるのが、和室に並べられていた黄色と黒色の比較的小さめなサイズ(F4号)のシリーズです。

全6点:「無題」、キャンバス・油彩、F4号、2023年

横からのぞくと一筆一筆がしっかりと盛り上がっているのが見え、描き手の身体性の表れを感じられます。

柴田先生は、絵画は作者の身体性を体現した絵具の集積としての物質でもあるとおっしゃいます。
見た人の記憶に残る絵具の盛り具合と筆跡、抑えられたカラーパレットの中で絶妙に混ざりあう色調。
そこに描かれているものよりも、絵画本体の物質性、絵具の存在感を目に見える形で表現することを意識しているそうです。油絵具だからこそ実現できる盛り感、勢いと強弱を感じられる筆跡。このようにして、物質的解像度は操作されます。

コミュニケーションとしての絵画

全4点:「無題」、キャンバス・油彩、F4号、2023年

そして解像度が操作されることによって、描く人と見る人の間にイメージのズレが生じ、それを活かしたある種のコミュニケーションが可能になります。そのコミュニケーションに面白みを感じる、と柴田先生はおっしゃいます。

例えば、演劇では脚本家や監督が持つ登場人物のイメージと、その役を演じる俳優が持つ登場人物のイメージ、更には演劇を見た観客が受け取るイメージは完全に一致しないことが多いです。
しかし、それらのイメージはどこかで重なり合っているはずなのです。

左:「無題」、キャンバス・油彩、F20号、 2023年
右:「無題」、キャンバス・油彩、F15号、2023年


絵画においても、描いた人が持つイメージと、見る人が受け取ったイメージが完全に一致することは難しいのですが、絵の解像度が高くなればなるほど、つまり写実的であればあるほど、二つのイメージのズレは小さくなります。
更にそこに描き手からの説明が加わることで、完全一致に近づいていきます。
しかし、柴田先生は解像度を下げることで敢えてイメージの完全一致防ぎます。そうすることで、描く側と見る側が独自のイメージを持つことができ、それぞれが持ったイメージの共通項を探るという一種のコミュニケーションが取れるのです。

「無題」、キャンバス・油彩、F4号、2023年

イメージの重なりを探った先に絶対的な答えがあるわけではない、と柴田先生はおっしゃいます。けれどもそこには違うイメージの間で揺れ動く解像度があり、そこに面白みを感じるのだそうです。
頭の中のイメージ通りに描いたものについて一方的に伝えるのではなく、お互いに持ったイメージの交点を探るという、双方からのコミュニケーションが持つことができるのです。

左:「無題」、キャンバス・油彩、P40号、2023年
右:「無題」、キャンバス・油彩、F8号、2023年

このシリーズがすべて無題なのも、このようなコミュニケーションのためだということです。
作品を見るとき、自由にイメージを膨らませられるように解像度は操作されていますが、事前に入ってくる情報量が増えると、作品に対して先入観を持たれてしまいます。イメージの膨らみにストッパーをかけてしまうことのないよう、タイトルは敢えて無くしているそうです。

一枚のキャンバスに一人の人物

一つのキャンバスあたり一人の人物を描いているこれらの作品。最近もこのスタイルが継続されていますが、2022年に開催された東京店での個展では、一枚の絵の中に複数人が登場する場面や群像が描かれていました。


「キャラバン」、キャンバス・油彩、F20号、2019年

そして当初は群衆画を継続しようと思っていたそうです。
しかし、挑戦しても思うようにうまく行かず、、、
そこで、人間一人一人をしっかり描くことと向き合おうと立ち返ったそうです。

すると、一人の人間だけでもやりがいのある構図が生まれ、その中でさらに探求してみたいものも見つけることができ、人物一人に焦点を当てた作品を継続しようと思ったそうです。

「無題」、キャンバス・油彩、F8号、2023年


柴田先生のお話を聞いていると、群衆画から一人の人物に焦点を当てて描くようになった理由は他にもありました。

群衆画には人物同士の関係性や場所の設定など、ストーリー性を含んでいるものが多く、それらの作品を見た人は作品の裏側のストーリーに興味を持つ傾向あったとのことです。
なので、描いたものについて口で説明することが多く、それが一方的なコミュニケーションになっていると感じた柴田先生。
双方向で成り立つコミュニケーションを可能にする作品を描きたいと思ったそうです。

そこで、この展示では一人の人物に焦点を当て、解像度を下げ、いらないものを排除。描き手と観察者の距離が近く、間にある一枚の絵に同じくらい入りこめるように意識して作品は描かれました。

左1点:「無題」、キャンバス・油彩、F8号、2023年
右4点:「無題」、キャンバス・油彩、F10号、2023年

不要な情報を排除する過程で作品の背景もシンプルになり、背景と人物の色の差をしっかりと持たせるために、人物はビビッドな色を、背景に少しパステル調の色彩を使うようになったそうです。

個展期間中にいらしたお客様の多くがキャンバスに描かれた人物像について自由に想像を膨らませ、共有しあい、会話が盛り上がっておりました。
正解がない分、人によって様々な見え方をしていることを柴田先生は実感でき、解像度の操作という挑戦に達成感を感じたそうです。

「無題」、キャンバス・油彩、P40号、2023年

絵の物質感を引き立てせることを意識している柴田先生は、画面におく一筆一筆のスピード感、流れ、力強さにこだわりを持っておられます。筆の入れ方を事前に入念に考えているわけではないそうですが、本能的な線でもないとおっしゃいます。一筆置いた後、それに対して次の一筆をどこにどのように置くかをしっかりと考え、その瞬間瞬間の決断の積み重ねで絵が完成していくのだそうです。

全2点:「無題」、キャンバス・油彩、F8号、2023年

同じ意識で描いた筆跡でも、大きさによって上手くいったり、いかなかったり、印象がガラッと変わったりすることも。なので、同じモチーフでも様々な大きさのキャンバスに描いてみないと、どれがベストの一筆なのかはわからないそうです。
その結果、同じモチーフが様々な大きさで描かれているのです。また、作品のサイズのみならず、配色のパターンや人物の影の有無、伸びかたなど、様々なディテールの違いによっても新たな魅力が生まれてきます。

全2点:「無題」、キャンバス・油彩、F10号、2023年

同じ歩く人のモチーフでも、服のなびき方、歩幅、靴の大きさや丸みなどによって印象が変わるのを感じられます。
作品を見ていると、頭の中で勝手にそれぞれの性格や動きに対する効果音、どこから来たのか、どこへ行くのかなどを想像してしまいます。
ちょっとした違いのようなことでも、並べてみると一つ一つの個性が良くわかります。
一枚一枚新鮮な感覚で向き合って描いているため同じものを描いているという感覚はないと柴田先生はおっしゃいます。

全2点:「無題」、キャンバス・油彩、F30号、2023年

先生がこの個展の作品の中でも特に気に入ってらしたのが、個展のDMに使用され、玄関正面に飾られていた二点です。
やってみないとわからない要素が多い分、描いたことのあるモチーフでも上手くいかないことがあるなか、この2作品はタッチ、構図、配色が納得のいく形でハマったそうです。

旗を持った人物というモチーフも先生のお気に入りだそうです。
手に物を持った人物はベストの筆使いを掴むのが一層難しくなるため、敢えて挑戦をし続けてきたそうです。

「無題」、キャンバス・油彩、F8号、2023年

旗を持つ人はいつの時代においても見受けられるモチーフであり、国や文化にかかわらず重要な時に旗が持たれることが多い。このような理由から描くようになったそうです。


左:「無題」、キャンバス・油彩、F30号、2023年
右:「無題」、キャンバス・油彩、F8号、2023年

暖炉の上に飾られた作品に登場する旗手は、先生がご覧になったお芝居の登場人物と映画の登場人物から影響が混ざったものだということです。二人とも、志を強く持って社会・大きな勢力と戦う強い女性であり、そのような漠然とした存在を描き留めてみたいと思って描かれたそうです。

左2点:「無題」、キャンバス・油彩、F8号、2023年
右1点:「無題」、キャンバス・油彩、P20号、2023年

描かれている人物一人一人が強い意志を持って何かに突き進んでいるような印象を受けるこれらの作品。様々なフィクションから気になった人、印象に残った人を描いており、意図的に選んでいるわけではないそうです。ですが、自然とそのような意志を強く持った人物に惹かれ、あこがれているのかもしれないと柴田先生はおっしゃいます。

この個展以降は作品のサイズの幅も広がり、50号や100号サイズのものが登場しております。

「無題」、キャンバス・油彩、F50号、2024年

福岡店での個展のあとに東京店にやってきたこちらの50号の作品。
目の前に立つと、そのインパクトに驚かされると同時に、筆跡のと力強さと勢い、人物の安定した存在感に心地よさも感じます。
いつかは立体作品への挑戦もしてみたいという柴田先生。
今後、どのような人物、どのような作品が登場するのか、とても楽しみです。

京都蔦屋二人展「Dual Vision」

最後に、前述しました京都蔦屋での二人展についてご紹介させていただきます。
印象に残る色彩によって描かれる柴田先生の大小さまざまな絵画作品と、白で展開される松本千里先生の様々な立体作品が共生し、交差する会場の雰囲気をお楽しみいただけます。
京都やその近辺にご在住の方、期間中に京都へお越しでご興味のある方は是非お立ち寄りください。

会期|2024年8月27日(火)~2024年9月18日(水)
時間|11:00~20:00 ※最終日のみ18:00閉場
会場|京都 蔦屋書店 5F エキシビションスペース
主催|京都 蔦屋書店

協力|みぞえ画廊
入場|無料
お問い合わせ|
Tel: 075-606-4525(営業時間内)
email: kyoto.info@ttclifestyle.co.jp

会場展示作品は、店頭とアートのオンラインマーケットプレイス「OIL by 美術手帖」にて販売します。
店頭|8月27日(火)11:00より販売開始。
OIL by 美術手帖|2024年9月2日(月)11:00より9月18日(水)17:00の期間に販売します。
※プレセールスの状況により会期開始前に販売が終了することがあります。

PRタイムス
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000914.000058854.html

京都 蔦屋書店
https://store.tsite.jp/kyoto/event/t-site/41953-1500060802.html

最後までお読みいただきありがとうございました。
(東京店スタッフT)


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