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読書メモ『神山進化論 人口減少を可能性に変えるまちづくり』

『神山進化論 人口減少を可能性に変えるまちづくり』(神田誠司著、学芸出版社、2018)は、朝日新聞の記者である著者が2016年から2年間かけて徳島県の神山町を取材し、その町おこしの取り組みをまとめたものだ。

徳島県の山間にある神山町は、人口5300人(2015)で高齢化率も48%に達するという、消滅可能性の高い自治体のひとつだ。

その一方で、2008年からの8年間にかけて、91世帯、161人もの人が移住した町でもある。

また、特にIT企業のサテライトオフィスが多くあることでも有名で、2011年以降から本書の執筆時点まででその数は16社に上るという。

こうした神山町は、地方創生の文脈では特に有名な町で、僕も東京にいるときによくその名前を耳にしていた。ただ、そのイメージは、「IT企業の誘致を頑張っている町」というレベルにとどまっていた。しかし、本書を読んで、そのイメージが変わった。

始まりはアーティスト・イン・レジデンス

まず、神山町の町おこしのスタートは、1999年のアーティスト・イン・レジデンスだったということだ。

これは、一人あたり70万円とずいぶん低い(!)金額だったが、アーティスト招致を担当していた国際交流協会は、以下のような文言で、本当に呼びたい人を呼んだという。

「あなたが十分な施設を求めているのであれば、神山はあなたの目指す場所ではありません。あなたが豊富な資金を求めているのであれば、神山はあなたの目指す場所ではありません。ただ、あなたが日本の田舎町で、心温かい人々に囲まれて、言い換えれば、人間本位のプログラムを探しているのであれば、神山こそあなたの目指すべき場所です」(P37)

結果的に1999~2017年までに21か国68人のアーティストが訪れた。この中に、神山に移住した人たちがいたことから、神山でも移住促進に向けた動きが起こっていったという。

本書の後半では、「アートからまちづくりが始まった町なので、精神が柔らかいというか、話していてすごく楽」(P164)という外から来た関係者のコメントも紹介されている。

僕の住む香川県の三豊市も、市独自のアーティスト・イン・レジデンス事業を行っているほか、瀬戸内国際芸術祭にも参加しているが、このくだりを読んで、改めてアートの持つ多面的な力を感じた。

面白い人が集まる好循環

このアーティスト・イン・レジデンスにより、町には外国人が訪れるなど、ユニークな雰囲気ができあがっていた。

そこに、もともと自然豊かな場所でのテレワークができる環境づくりを考えていたITベンチャー「Sansan」(本社は東京・渋谷)が聞きつけたことから、ITサテライトオフィスのメッカとしての神山の次の動きが進んでいく。

こうした中、ITベンチャーのオフィス建築を行う建築士、田舎でカフェをやってみたい人など、多様な人がどんどん集まるようになっていった(面白い人が集まっているので、さらに面白い人が集まっていく、という好循環だ)


町の方向性を合わせる

ただし、こうした中で、町の人たちが目指す方向性がバラバラになっているという危機感が生まれた。

また、移住者が増えているとは言っても、それが町の本質的な課題を改善するようなレベルに至ってないという課題もあった。

こうした中で行われたのが、2015年の地方創生戦略づくりだ。ここでは、2014年に移住した「働き方研究家」西村佳哲さんなどが中心となり、まちのキーパーソン36人が集まって未来について語り合った。

ここで出てくる話はとても面白い。予定調和の「異議なし会議」にしないために、町があらかじめ案をつくらず、専門家を呼んでみんなで勉強した後で、ワークショップ形式で徹底的に話し合うといった工夫がなされたり、話し合いの過程の中で、役場職員が「考えなくなっている自分」が気づいたり。

会では、「一人称で私がやるという人がいないプロジェクトは戦略に書き込まない」という合意がなされていたという。それに関して、西村さんからは、役場職員にこんな呼びかけもなされた。

「もしプロジェクトチームでやってみたいことが見つかったら、職員の皆さん、役場を辞めてみませんか?役場を辞めて地域の未来をつくる民間の事業に身を投じる。全国にはそんな行政マンが結構いますよ」

「辞めないにしても、あのプロジェクトを支えたいから教育委員会に移ってみたいとか、自分から人事の希望を出してみませんか?意志を伴う異動のチャンスです。町長、もし誰かが示して来たら考慮しますよね?」(P150~151)

こうした中で、さまざまな実効性のあるプロジェクトが生まれた。


フードハブプロジェクト

そのプロジェクトの一つが、「フードハブ・プロジェクト」だ。

これは、地域の基幹産業である農業の未来をつくるためのプロジェクトで、「地産地食」というキーワードの下、

・次世代の農業者をみんなで育てる
・地域の食材を使った料理を提供する食堂
・地域の食材を売る食品店
・加工品づくり
・食育

の5つの活動がなされている。

この個々の活動は、僕の住む三豊市でも該当する活動がある。名前を聞くとすごそうだけど、内容を見ると、なあんだ、という気持ちもあった。

しかし、改めて考えてみて、統一されたコンセプトがあると分かりやすいし、人を引き付ける凝集力がある。やっぱり、物事、打ち出し方や、まとめ方(編集方法)というのはとても重要なのだ。

これは、自分が今後も地域と関わっていくうえで、改めて考えたいことなので、特記しておきたい。

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