見出し画像

「属する」をデザインする、インクルーシブデザインとは

今年はコロナの影響で、多くのカンファレンスやイベントがオンライン開催になりました。バンクーバー在住の私としては、そのおかげで場所を問わず多くのセッションを聞くことができました。時差の問題はあれど日本のイベントにもたくさん参加できました。

中でも、4月にカナダ・トロントを拠点に活動しているデザインコミュニティー、Design X主催のカンファレンス「Remote Design Week」ではすごくいい刺激を受けました。
このカンファレンスは5日間行われ、約43の国や地域から1500名近くが参加。その中でとても印象的だったセッションの話をしたいと思います。

画像8

「属する」をデザインする 

BumbleのプロダクトデザイナーであるLara Mendoncaさんのセッションで、今まで気づかなかったデザインの視野を知ることができました。ユニバーサルデザイン、アクセシブルデザイン、グローバルスタンダード、インクルーシブデザイン…似たような言葉をあちこちで聞くようになったけれど、正直私はこれらの言葉の違いを明確に説明できる自信はありません。Laraさんはインクルーシブデザインを「属する」をデザインすると話していました。

「属する」とはどういうこと?

属する(Belonging)とは、多様性(Diversity)、包括性(Inclusion)、公平性(Equity)の全てを兼ね備えたことであるといいます。

画像1

「属する」ことは、誰もが発言ができ、変化を起こすための権利があると心から感じることができる環境が整っていることです。

多様性(Diversity)は、人種、国籍、性別、年齢、学歴などにかかわらず、多様な人材を活かすこと。包括性(Inclusion)は、全ての個人の意見、考えが認められ活かされること。そして公平性(Equity)は、力の分配。同じ人、同じ考えの人が常に決定権を持つことを認めないこと。どこかが欠けると関係性が歪み問題が生じます。そして、これら全てを兼ね備えることは容易なことではありません。

「属する」が生み出す影響

決してデザイナーが意図して制作したものではありませんが、作り手が想定していなかった結果に、多くの人がターゲットから外れてしまったケースがあります。
現在は見直し改善されていますが、以下の例はよく耳にするものです。

オフィスの温度
理想的なオフィスの温度を男性の代謝を基準に設定されたため、女性がオフィスで上着を着ている姿を目にする。

安全装置
男性の身体に合わせて設計されたため、女性の身体に合わない、心地悪く感じる。または保護の役割を果たさない。

スマートフォンのサイズ
男性向けに作られたため、女性や手の小さい人には大きすぎる。操作しにくい。

音声認識
ほとんどの場合、高い声は認識しない。高い声は認識しにくい傾向がある。

交通事故
衝突実験用の人体ダミーが最近までは全て男性だったため、装置などが男性向けに設計されていることから、女性の死亡率に影響する可能性が高い。(現在は全体の5%が女性ダミーを使用)

近年では、インクルーシブデザイン(Inclusive Design) - デザインの対象から排除されてきた人々を巻き込み、一緒にデザインを行っていくこと - を耳にすることが増えましたが、その反対はエクスクルーシブ(Exclusive)排他的です。

画像3

Laraさんは、属する(Belonging)の反対を敵意、敵対心(Hostility)と言います。自分がどこにも属していないと感じるとき、どこか怖れを感じ、自分を取り巻く全ての環境が敵意を持っているような気持ちになります。悪いことがあるわけではないのに、物事をネガティブに捉え、危険を感じるかもしれません。それは、排他的(Exclusive)よりも良くない状態です。

画像4

デザイナーが意識すべき「属する」とは?

では、デザイナーはどのように「属する」をデザインしたらいいのでしょうか?

「属する」には4つのステージがあることを理解する必要があります。

画像5

まず、最初に自分自身(Self)を知ることから始めます。自身が持つ先入観を知ること。また、どんな時に「自分は属していない」と感じるのか。そして、自分が他人に対して「属していない」を作り出している可能性はあるのか。

チーム(Team)、プロダクト(Product)、組織または社会(System)は、自分以外(Others)です。これら全ては自分自身だけでは変えることはできません。図にあるように、1つのステージは、次のステージに影響を与えることができても、全てを一気に変えることはありません。

画像6

1人のデザイナーとして、1人の人間として、自分自身にこう問いかけてみましょう。

今まで考えたことない視点はありませんか?

どれだけ自分と向き合って、自分には無い視点を想像しても、それは自分の経験ではなく「共感」に過ぎません。共感に頼ってしまうと、実際の問題解決には繋がらず、自分と他との間に生まれる隙間を埋めることはできません。自身の視点を広げるためには、チームが必要です。共感には限度がある。様々な視点を知るためにも多様性あるチームが重要になります。

画像7

インクルーシブデザインは、全ての人に対応する1つのものをデザインするという意味ではありません。誰もが参加できる多様な方法をデザインすることで、全ての人が「属している」という意識を持つことができます。

「属する」を実現するために忘れてはいけないこと

画像7

・他人の意見を聞くこと
・自身の先入観にとらわれないこと
・変化に影響を与えること

先入観にとらわれることなく、他人の意見を取り入れ、自分の視野を広げたとしても、行動に移さなければ何も起こりません。言葉で「属する」を実現したいと言っても、それではチーム、プロダクト、組織に何も影響を与えない。行動に移すことは一歩勇気が必要ですが、まずは自分ができるところから始めていきましょう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?