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『雨とベンツと国道と私』 モダンスイマーズ

2024年6月13日(木)15時~
@東京芸術劇場シアターイースト
¥3000(整理番号付き自由席)

おうわさは予々(かねがね)のモダンスイマーズ
2年前、『だからビリーは東京で』への絶賛がX(かつてのTwitter)のTLにちょいちょい流れてきて、気になったけれど結局スルーしてしまった。ちょっと観てみたかったなあと思い返していたので、今回ついに初観劇。チケット代3000円でハードルが低かったせいもある。ビリーの時にチケ代までチェックしてたらそこまで迷わなかったかもなあ。(観終わった今「3000円は安い、もっと取っていいのに!」と声を大にしたい)

コロナの影響で心身ともに痛んでいた五味栞は、知人の提案でとある自主映画制作を手伝うため、群馬へと誘われる。
そこには、かつて五味が参加していた撮影現場で罵声や怒号を日常的に役者やスタッフに放って、いた監督、坂根真一の姿があった。
しかし坂根は名前を変え、別人のように温厚な振る舞いを見せながら監督をしている。
坂根の影響で心に傷を負った五味はその姿を信じない。
過去と現在が混じり、それぞれの思いが交錯していく。

人は本当に変われるのか。

(当日パンフより)


噂に違わずなかなかに佳き舞台でありました。

※ここから先、ネタバレあり!

パワハラを取り扱った作品だけど、説教じみているわけでもなく、最後に明確な決着がつくわけでもなく。加害者と被害者、どちらが正しいとかそういうことじゃないんだなあ。正しいという基準が曖昧すぎるか。
シビアな面もあるけれど、笑える部分も多々あって複雑な読後感。読書じゃないけど。(観劇後感とは言わないもんね)

怒鳴ったり暴力を振るうのは絶対に良くないけど、被害者である俳優が正しいかというとそうでもない。蘊蓄垂れたり演技論にこだわる大根役者というのは、傍から見ればコメディだけど、監督からしたらとんでもない輩だろうし。
過去にすごい役者と共演したとか自慢げに言う小林さんの、「えっ」と振り返る芝居の下手さ加減は本当におかしくて。その後、ただ声をかけられて素で振り返る「えっ」という瞬間を「それでいい」とOKが出た時の絶妙なおかしみ。
小林さんにとっては素の「えっ」も、小林さん役の古山憲太郎さんにとっては演技なんだよなあ。役者さんすごい。

主人公のゴミちゃん(五味という苗字と、ゴミのような自分という自嘲も)の、オドオドと自信のない態度や仕草や喋り方がすごくそれっぽくて、めっちゃうまい。なんて言うか、うまいからこそ本当にいらっとした。何この感情。アタシも小学・中学生時代はいじめられっ子でいじめの被害を被った側なのに。アタシもかつてこんな感じだったのかな・・・と想像して切なくなった。

1時間50分の上演時間で、過去と現在とをいったりきたりで描写するけれど、不思議と詰め込んだ感はなかった。
過去のシーンでは撮影現場以外に、ゴミちゃんの宮本圭への恋愛(雨の日のデート♪)や、それにまったく気づかず宮本圭に岡惚れする山口の件、現在の現場で脚本を書いた才谷の夫とのエピソードや、色々盛りだくさんで感情は忙しかったけど。うん。いやしかし、本当に感情が忙しかった。

雨女のゴミちゃんが好きなのが女性だというのも、何のことはなくさらっとかわいい恋愛エピソードとして描かれるのが良かった。成就しなかったけど。宮本圭のほうがどう思っていたのかもわからないけど。

才谷夫妻のエピソードはちょっと重い。死んでしまった人に対する気持ちは昇華させるのはむずかしい。抱えていくのはしんどい。亡くなった夫への想いを映画にするのはいいんだけど、素人脚本なのがまた痛い。監督は温厚になったけど、いい作品になるとは思えないし。
敦子は『ベティブルー』が好きで何回も観て、付き合わされた夫は横で寝ていたという件り、個人的にめちゃ思い当たって笑ってしまった。この映画が公開された当時、好きだったひとがめっちゃハマって付き合いで映画館まで観に行ったのよねえ。まあアタシもそこそこ楽しんだけど(ベアトリス・ダルは好みだったし)、わけワカラン映画だなと思ってたのだ。

才谷脚本で撮ってた作品は、才谷本人が演じる妻と、その血を吸って若返った夫の話。これはイキウメで見たような気が・・・(2022年『天の敵』)出来上がった映画を観てみたい気もする。でも。
若返った夫の役を演る石田凛太郎は、またも頭で考えるばかりで演技のマズイ俳優。
素人脚本だし演者もイマイチ、温厚になった監督はダメ出しもできず、きっと映画の出来も諦めてる(たぶん)。
なんとか撮影が終わり打ち上げの時。山口が監督の温厚さに増長し、その態度についに監督が暴力を振るってしまう。そこでゴミちゃんが爆発、過去のパワハラを暴露するのだ。ついでに「宮本圭が自分に気がある」という山口の誤解についても「宮本さんは気持ち悪いと言ってた」とトドメを刺す。

確かに監督は加害者だけど、反省して行いを改めても被害者の傷が消えるわけでもない。けれどこのゴミちゃんの糾弾も正しい行いとも言えないと思う。

才谷の要望でラストシーンを追加で撮ることになり、なし崩しになった打ち上げから国道にゲリラ撮影を強行する面々。国道を無言で走るだけなのだが、またも石田は「どういう気持ちで走ればいいのか・・・」と理屈を捏ね出す。
そこでまたもゴミちゃん爆発。ごちゃごちゃ考えなくていーんだよ! ただがむしゃらに走れ!!」と怒鳴る。かつて監督が俳優を怒鳴りつけたのと同じセリフで。ひゃあっとばかりに走る凛太郎。

すでに被害者が加害者に反転してるし、でも凛太郎に考えさせたり納得させるより、このシーンを撮るにはこれでいいんだろう。感動してるとかそういうのでもないんだけど、悲しくはないし嬉しくもないけど、どういう気持ちなんだろうアタシ。ううん、やっぱちょっと、感動してるのかなあ。
とりあえず言えるのは、おもしろかったということ。

どの役者さんもよかった。
観る前にキャスト表をチェックして、知ってるのは津村さんだけ。ずっと昔、東京ハートブレイカーズに客演されて、それ以来ちょっと親しみを感じて何度か他の舞台でも拝見して。朝ドラにもチラッと出てたし。山口役、人の気持ちをまったく読めない音響さんを好演されていてニヤニヤした。
津村さんだけ・・・と思ってたら、なんと。凛太郎役の方は今まさに朝ドラ『虎に翼』に出ている方じゃあありませんか! 発芽玄米こと小橋役で。あああ、そうか~~。全然雰囲気違って気づかなかった。しかも去年『ヒトラーを画家にする話』で主演やってて、それバッチリ観てるやんアタシ。いやだもう。
凛太郎は前述した『だからビリーは東京で』の主演だったらしく、それを観てる人にはニヤリというかほろり?というかの楽しみがあったらしい。ちぇっ、いいなあ。絶対おもしろそうじゃん。

初日から12日までに観劇すれば脚本データをダウンロードできるという素晴らしい特典がついていたのだが、アタシがチケットを取ろうとした時には12日まで売り切れだった。当日券トライすればよかったかなあ。いやでも行って入れなかったらショックでかいし・・・。
特典はなかったけど、アフタートークがあったのでちょっとラッキー。
客演の方がメインに登壇されたので、劇団の印象を稽古に入る前と今でどう変わったかとか、好きな作品(映像でも漫画でも)とか。本番前のルーティンとか。今作についての話は、好きなシーンやセリフについて、くらいだったかな。

小林さん→雨のデートのシーン
名村くん→「強い側が信頼関係を決められない」「どっちがおかしいとか、それが暴力とは関係ない」
山中さん→「解放してあげたい」敦子さんが夫のことを言っているセリフかな?
「このバカメガネ!」山口を罵倒してる自身のセリフ
西條さん→才谷夫妻が国道を歩いてるシーン

もうちょっと早く観ていればともおもったけど、まあ観られただけでもよかった。次回作はちゃんとチェックしよう。
公演は6月30日まであるので、気になっている方は是非に。

モダンスイマーズ 

<キャスト>
五味栞         山中志歩
六甲トオル(坂根真一) 小椋毅
才谷敦子        小林さやか
宮本圭         生越千晴
石田凛太朗       名村辰
山口壮一        津村知与支
KENGO         西條義将
才谷和宏(他、数役)  古山憲太郎

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