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エッセイ 初音ミクのいらないセカイ

2021.12.9 追記

こちらの記事で紹介していただきました。哲学とボーカロイドについての素敵な記事です。きぃさんありがとうございます。

最近、モヤモヤしていることがある。「初音ミク」という概念についてだ。

この記事を書き始めた時点でわたしはまだこのモヤモヤ感の意味を理解できていないので、文字に書き出しながら研究してみることにする。

わたしは小学生の頃からずっと、初音ミク…というかボカロ楽曲全般が大好きだった。というかそれ以外の娯楽を殆ど知らなかった。ねんどろいどのボーカロイドキャラクターが主役の3DS音ゲー「プロジェクト・ミライ」をきっかけとし、毎日ニコニコで色んなクリエイターによって生み出される曲を狂ったように聴きまくっていた。[初音ミク]という概念は、作曲家、絵師、その動画や曲を聴いた私たちによって様々な顔を見せる。観測者、製作者ごとに初音ミクという存在の在り方は全く異なるのだ。よって、初音ミクは一つの作品、一つの[世界観]に縛られないフリーダムな存在なのである。ある曲ではキュートに、また別の曲ではクールに、とある絵描きの絵ではセクシーに、という風に変幻自在に姿形が変わっても、[初音ミク]である…といったところが私は大好きだった。ミクは緑だが、青い。青いが、緑の歌姫。とあるMVでは髪が赤いが、それでもミク。とあるMVでは黒い衣装。とある動画ではネギを振り回している。とある動画では髪が白い。雪ミクは青い。桜ミクは白い。それでもミクは、ミクだ。

が、しかし最近私はTwitterやpixiv、youtubeで[ミク]を見ていると何か違和感を覚えるようになってきた。みんな普通のミクを描いたらしいけど、みんな髪が水色だぞ(いや水色は間違ってないけどさぁ)。全部違う人が描いたミクだけど、なんかみんな同じような雰囲気をしているぞ。ミクが歌っているけど、ミクが出てこないぞ。みんなミクの声ではなくMVのキャラの考察ばかりしているぞ?おかしいな。あ、あのボカロPさんの新曲だ。聴いてみよう。うん、やっぱりこの人のミクちゃんは好きだ。コメント欄で他の人の感想見よ〜。

「ここの歌詞が○○くんの過去、葛藤、夢みたいなものを現してる…!尊い!すごい!やっぱり※※Pさんは天才!」

…おいちょっと待て。○○くんって誰だ。なんだ。このコメントの返信欄もそのキャラの話ばっかりしてるぞ。なんだ、なんなんだこれは。これはミクちゃんの歌じゃないのか?

概要欄を見直して気付いた。これはどうやら、「プロジェクトセカイ」という初音ミクが登場するソシャゲに提供された曲らしい。ゲーム内では、ボカロではないオリジナルキャラクターが歌っているそうで。そういえば、プロジェクトセカイって前に「初音ミクのソシャゲが出る!」という謳い文句で調べてたけど主人公がミクじゃなくてオリキャラだって知ってやらなかったなぁ。あ、なんかこの曲が伸びてる。あ、プロジェクトセカイの広告だ。

え?プロジェクトセカイのキャラがこのボカロ曲をカバー?しかもこれだけじゃない、有名所をどんどんアイドルグループっぽいオリキャラ達がカバーしてるっぽいぞ。しかもめっちゃ人気らしいし。

おいおいおいおいおい。待って待って待って待って待って。Twitterもミクからプロセカ関連の話ばっかり出てきてるぞ。私は最初プロセカを見た時「なんで普通にミクのゲームにしなかったんだ!アイマスとかバンドリみたいな普通のアイドルの音ゲーと変わらないじゃないか!絶対売れねえ!」と思った。それなのに広告では、さながらミクやリンレンなんかが主役のように謳われている。でもみんなボカロではない、「中の人がいるキャラクター」を当たり前のように認めているし、推している。なんだこれ、どうなっている?ここで悪い妄想が私の頭を一瞬横切った。

もしかして、初音ミクや素晴らしいボカロはこのソシャゲのファンを集めるエサになっているのではないか。

もしかして「初音ミク」という偶像は、「初音ミク」じゃなくても成立するのではないか。

プロセカの初音ミクは、初音ミクじゃない別の有名なキャラクターでもストーリーやプロモーションは成立するのではないか。たまたま初音ミクがちょうど良かっただけで。

初音ミクというキャラクターは、ソフトウェアのパッケージから「おれら」が勝手に生み出した電子の歌姫でなくなってしまったのではないか。

初音ミクは、初音ミクにしかない希少性を失いつつあるのではないか。

そう思ってしまった。

「ボーカロイドが好きです」という言葉には「この曲はミク版もいいけど本人版も」「ミクも悪くないけど歌い手さんのボカロカバーが」とか「初音ミクちゃんは(ビジュアルが)かわいいから好きです」みたいなニュアンスが含まれていることが多くなってきた気がする。その気になればUTAUというフリーソフトで、アマチュアが好きにオリジナルの合成音声も作れるようになった。「重音テト」のような、「ミクっぽい何か」を個人で作れる。マジカルミライで「うぉおおおミクぅ〜!!!」と叫ぶ「おまえら」もいない。

ミク、イズ、デッド。ボカロオタク、イズ、デッド。そんな不安感が頭の中を渦巻いている。多分初音ミクはこれからも時代に合わせ、姿形を変化させながら10代の心をときめかせていくに違いない。しかし、私はもう変わったミクちゃんを愛せないような、そんな気がしているのだ。

まとめ

・初音ミクは、一般的な版権キャラクターと同じように「記号化」されてきているのではないか。

・初音ミクが「記号化」されているということは、初音ミクと同じ「記号」を持つキャラクターが現れればそれで代替できてしまうのではないか。

・記号化された初音ミクは、記号化されても、いや寧ろ記号化される事でキャラクター性が単純になり愛され続けるのであろう。

という話でした。最後に、私が人生で最初に聞いたボカロ曲を載せて終わろうと思う。


ニコニコ動画がなくなって、それでも私は止められない!


…ありがとうございました。

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