散々

 昨日まで見上げられていたとはもう誰も思わないくらい、踏まれて土に混じって見下げられもしなくなった花びら。それはハートの形に見えた。心はどこにある?そう聞くと、頭を指差す人と、胸を指す人がいる。そう書いてあった本は、心理学の本だったか、脳科学の本だったか、そもそもそんな本を私は読んだことがあったのか。

満を持して満ちた月も開いた花弁も、私はいつも持て余してしまう。怖い。自分を凌ぐ存在を、そこに感じて畏怖する。欠けた月のほうがいい。そうじゃないと、安易に円周率なんかを持ち出して、わかったような顔をしてしまう。わからなくて怖いから、わかったような顔をしてしまう。そうやってまた今日も、こうしてまた今日を、誤魔化して騙し騙しで生きて満足した振りをしてしまう。

 傷つきたくなかった。傷つきたくない。ただそれだけだ。私の幸せには、他者に傷つけられない生活が不可欠で、他者を傷つけない生活が望ましい。それだけのことが難しい。きっとこの先も不可能だ。傷つきたくなかった。傷つけたくなかった。ただそれだけだ。ただ好きになっただけだ。

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