或る日

 携帯端末から流れる音楽は、相変わらず失ってから気付いて勝手に傷付いて終わっていく。デジタル化が進んだこの時代に、自分の肉体が不用意に露わになることを妙に恥ずかしく思う。何故か同時に空いた両足靴下の穴は、私を嵌める罠のように見える。だけどこの穴に他人が気が付いたところで、ただ気が付くだけで終わりだ。私が勝手に傷付く必要もない。

 下の下の身の上話は、やっぱりどこにでもある話で、私にとっては切実でも、他人にとっては戯言だ。分かっていながらも口を開いたのは、君が耳を傾けていたからだ。どうしようもない話も、どうにもならない関係も、関係のない君に話したら、少し心は軽くなる。それだけの、ただのそれだけのこと。

 君の中の下の身の上話を聞く。君は話しながら笑って、笑いながらまた話す。どうでもいいことだけは、やけに真剣そうに話す。どうでもよくないことは、やけにどうでもよさそうに話す。

 君は私に似ているから嫌いで、君は私に似ていないから好きだ。

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