非幸福論

 なんだかんだ幸せになってしまったな。ここにはもう得るものは何も無くて、ただ失うものばかりだ。怖い。とても怖い。幸せという何の根拠もない感情に絡め取られた不幸は私のことを見捨ててしまった。私は不幸を振り向かせないと、また振り向かせないといけない。苦しい時にいつもここにいてくれた不幸までもを私から奪おうとする、幸せ。ぽっと出のそんなやつに、私の生活を損なわれたくはない。

幸せなのに泣くのは、まだここにある不幸の温もりを感じていたいからだ。まだ好きだからと言ってあげたいからだ。あれだけ嫌いと言っても離してくれなかったのにどうして私の体から抜け出そうとするの?と、問うて縛り付けておきたいからだ。私に触れられないところで、でもずっと近くで、縛られたままでいて欲しい。そうしたらやっと私は不幸のことを愛せると思う。幸せと抱き合っている私の少し遠くに、いつまでもいつまでもいて欲しい。それが無理ならもう二度と私の前に現れないで欲しいけど、都合よく連絡してきて、ふらっと会いに来て気が付いたら私の肩に触れているから、また私は泣いてしまう。同じくらい笑って、また同じくらい泣いてしまう。

 辛い、悲しい、苦しい。幸せは、私自身に興味がなくて、幸せという響きに依拠しているだけの言葉の奴隷だ。それなのに私のことを誑かして弄んで、トイレットペーパーみたいに使い捨てる。私は奴隷の奴隷で、それっぽい言葉に依存しているだけで、金輪際幸福になんてなり得ない。だから不幸だけには、あなただけには、いつだってここにいて欲しい。

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